サカナクション 「sakanaction」

sakanaction (初回生産限定盤CD+DVD)

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セルフタイトルが代表作なのは普通だけど、逆にセルフタイトルが異色作ってのあったかな。


前作では各曲が粒立ち、ロック的に波のあるダイナミズムがアルバム全体から感じられましたが、今作はもっとテクノ寄りで、一定のパルスを繰り返すように曲が組み合わされています。作品を重ねるごとにシャープに洗練されてきている4つ打ちビートはまるで心音のように穏やかで緻密、しかし確実に身体にヒットするスタイリッシュなダンスグルーヴを展開しています。全体の音像もそれに伴うように低熱、クールに統制されたムードで、無闇に盛り上げたりはせずにスルスルと進行し、サビでごく自然にパッと視界が開けるイメージ。それは正しくバンド名が体現するように、水流に身を任せる鮮やかな魚の泳ぎのようで、とうとうこの境地まで達したかというしみじみ唸ってしまうほど。


「Intro」 から繋がる 「Inori」 がいきなりインストゥルメンタルという挑戦的なオープナーを経て、これでもかのサカナクション節オンパレード。相変わらずメロディのパターンにあんまりヴァラエティが無いのは、もうこちらがだんだん慣れてきて気にならなくなったな。エレクトロニクスとバンドサウンドに境目がなく、そのトラックと歌にも境目がないあたり、ますます完成度を高めてきてるということではありますが。 「なんてったって春」 の語感の良さにはちょっと感動を覚えたし、強くライブを意識したであろう 「Aoi」 や環境音をリズムに組み込んだ 「映画」 など、ポップと実験性のバランスを一層高い場所で釣り合わせた楽曲が揃っています。


決して大胆な変化や驚きがあるわけではありませんが、己の個性をさらに深化/純化させ、サカナクションとしか言いようのないポップソングを作り上げている、その手腕にはもはや貫禄めいたものすら感じます。非常に手堅く、地に足がついていて、しかし裏側にはある種の野心のようなものも見え隠れする。これから時代と並行しながらさらに音を深くしていくのかも、と先のことを想像してみると面白いですね。下手に EDM などには手を出さないとは思うのですが、ますます4つ打ち職人と化していきそうで。


1年半ぶりとなる6作目。


Rating: 7.8/10