ART-SCHOOL 「The Alchemist」

The Alchemist

The Alchemist


あなたは90年代を知っていますか。


俺にとって90年代と言えば口を酸っぱくして言うようにヴィジュアル系しかありませんでしたが、メロコア/パンクが中高生をコピーに駆り立てた時期もあり、渋谷系が最もヒップでクールだった時期もあり、洋楽リスナーにとってはグランジブリットポップ、ポストロックなど色々あったでしょう。もはや20年前になってしまう時の流れの速さに愕然としそうになりますが、頭の中ではほとんど古びることなく根強く残る音楽。そんなノスタルジーの輝きを活力に生きていくのは、脆いけれど幸せだなあって。


ビッグビート+マッドチェスターという解釈で良いのだろうか、混沌とした音像の中でグルーヴの渦が立ち昇る 「Helpless」 、一転して清々しく疾走するドリームポップ 「フローズン ガール」 、翳りや憂いを感じさせるネオアコ 「The Night is Young」 「光の無い部屋」 、彼らには珍しくファストなオルタナティブ・パンクチューン 「Dead 1970」 、そして 「Heart Beat」 は4つ打ちキックを踏んでるためか唯一今の時代っぽい。ラスト曲以外は本当に、想い出迷子族の称号も甘んじて受けますと言わんばかりの90年代スキーっぷり。前作 「BABY ACID BABY」 がザラついたシリアスなラウド・サウンドを軸にした作品でしたが、その流れを汲みつつもう少し自然体で、バンド結成時から常備しているインプットを吐き出した感じ。


仕事か趣味かで言えば限りなく趣味に近い内容。目新しい発見とか何もない、とても木下理樹らしい音楽です。あまりにもらしさ全開で思わず微笑ましくなってしまうほど。さらに枯れた声で相変わらず不安定な歌だし、自堕落な歌詞も変わらないけど、一部の人間にとってはスケープゴート的ヒーローとして在り続けるでしょう。この人はこれからもずっとこんな感じなんだろうな、と割り切ってしまうと面白くなってくるのが不思議。


現体制では初となるミニアルバム。


Rating: 7.2/10