後藤まりこ 「299792458」

299792458(初回生産限定盤)(DVD付)

明暗の相対系。

音楽的にはミドリと共通するところもそれなりに多いですが、ジャズ色などは抜けて真っ当なポップロックに落ち着いています。それよりもやはりまりこ嬢のメタモルフォーゼが印象的。致死量を超える勢いのリビドーを初期衝動に任せて喚き散らすスタイルから、憑き物が落ちたように YUKI ばりのキュートな歌声へ。場面場面では声を歪ませることもありますが、ミドリ時代とは比率がまるっきり逆転。 「うーちゃん」 「ゆうびんやさん」 のように目いっぱい可愛らしさ詰め込んだ曲とか、聴いてて脱臼しそうになります。

ただ彼女の本心はいったいどちらなのでしょうね。俺は彼女のパーソナリティなど知る由もないし、インタビューすらろくすっぽ読んでないのですけども、曲を聴く限りではミドリとソロ、どちらも戦略的でクレバーで、良くも悪くも演劇的だなと思うのですね。衝動にしろポップにしろ、彼女はひとつ方向性を定めたら自分のキャラを作って演じる、女優気質みたいなところが昔からずっとある気がします。もちろん常に表現したいことがリアリティとして根底にあって、それが時期とともに自然に移り変わっているのだとも思いますが、この変貌にはやはり計算高さを匂わずにはいられないわけで、それが彼女の武器でもあり、匂ってしまう時点で弱点でもあるのかなと。

まだ現時点ではミドリを超える魅力があるとまでは思いません。ただこの方向性を突き詰めて、それこそ本当に YUKI ばり、それ以上の確固たる世界観を確立する可能性だってあるかもしれません。 「ユートピア」 「M@HφU☆少女。。」 のような良曲もあるわけだし。今はやはり YUKI を即座に連想してしまうので、さらに個性を煮詰めていってほしいですね。

元ミドリのヴォーカリストによる初ソロ作。

Rating: 6.9/10