Sigur Rós 「Valtari」

Valtari

Valtari


Sigur Rós が Sigur Rós であるために。


前作 「Með suð í eyrum við spilum endalaust」 がパワフルなリズム楽器を大胆に導入した意欲作であったり、 Jónsi のソロがその方向性をさらに拡張したオーケストラル・アートポップ大作であったりと、従来の枠を押し広げるような作品が続いていましたが、ここにあるのは紛れもなく、一点の曇りもなく、確かに見覚えのある Sigur Rós です。


おそらくこの世で最も幸福なノイズであろう空間的な轟音を、鳥の囀りのような穏やかさから嵐の渦中に至るダイナミックなグラデーションで彩る。静と動の移行はポストロックの王道たる手法ではありますが、彼らが演るとやはり余所の凡百とは明らかにテクスチャーの細やかさ、厚みの密度が違います。 Jónsi の天使的なファルセット・ヴォイスと、目の前の情景全てを淡く映し出す陽の光のようなサウンド。様々な音色が一つの穏やかな流れに飲み込まれ、ポストロックやエレクトロニカといったジャンルのせせこましさは関係なしに、静謐と爆発、拡張と収斂を繰り返していく。7分8分といった長尺スロウ曲ばかりながらも、それが彼らの表現において必要不可欠の長さであり、中弛みや無駄はない。慈悲深さの中に揺るぎない力強さが宿った、まさしく Sigur Rós としての矜持が十分に示されています。


まるで聖歌のように美しく荘厳なダイナミズムが圧し掛かる 「Varúð」 「Rembihnútur」 などは特に、彼らがぬるいアンビエントばかりを演るバンドではない、聖性に満ちたポップネスと全霊を発するダイナミズムを併せ持った稀有なバンドなのだなということが実感できます。過去の作品を通ってきた人であれば新しい側面に欠けて物足りなさを感じるかもしれませんが、それ以上に彼らの本来持つ自力が純化抽出され、横綱相撲の勢いで思考を奪い去ってくれる。貫禄を感じさせる良作です。


約4年ぶりとなるオリジナルフルレンス6作目。


Rating: 8.0/10