Grouper 「The Man Who Died in His Boat」

Man Who Died in His Boat

Man Who Died in His Boat


――けれど漕ぐ手はやめないで。


2008年の 「Dragging a Dead Deer Up a Hill」 レコーディング時に録られたという今作。前作 「A I A」 は環境音風のノイズを用いたアンビエント/ドローン・ミュージックでしたが、ここでフィーチャーされているのはギター。ラフにストロークされるアコギの乾いた音色と、彼女の伸びやかで澄んだ歌声で構成されるフォークソング集…なのですが、そこはやっぱりグルーパー。全ての音に呪いのようなエコー/リバーブ処理が施されているのと、エレクトロニクスによるドローン・ノイズも交え、彼女らしい幽玄でミステリアスなサウンドスケープを展開しています。


「Vital」 「Cloud in Places」 などは空気に溶け入るメロディが心地良く、真っ当な歌モノと言っても良いくらい。ただその歌は船を沈めるセイレンのような薄ら寒さを孕んでおり、聴いてる自分も何処かに迷い込んで帰ってこれなくなりそうな気にさせられますが。場面によっては 「Difference (Voices)」 「Being Her Shadow」 のように、霧が濃くなりすぎて歌う声も霞んできたり。また静けさの中に狂気を感じさせるピアノインスト 「Vanishing Point」 、最もフォークらしい牧歌的な柔らかさが表れた小曲 「Living Room」 の存在感にもハッとさせられます。


あと、タイトル曲 「The Man Who Died in His Boat」 を聴いて何となく思い出したのは、冒頭にも引用してある中原中也の 「湖上」なのでした。あの詩が醸し出す幻想的で静かな美しさ、茫洋とした水上に佇む宛てのない心細さは、この音にも通じる所があるような気がして。イマジナティブな深みに満ちた良作です。


ポートランド出身、 Liz Harris のソロユニットによる約2年ぶりの新作。


Rating: 7.6/10