非常階段 starring 初音ミク 「初音階段」

初音階段

初音階段


初音ミクの音声の調整を 「調教」 と呼ぶのは日本人特有の気持ち悪さがあってあまり好きではありませんが、今作における初音ミクはまさに 「調教」 の名に相応しい扱いだと思います。


「やさしいにっぽん人」 「タンゴ」 はどちらも昭和時代の陰鬱としたダークサイドを引き摺る歌モノカヴァー。不気味な静けさを湛えた演奏とぎこちない歌声、そこに不意を突いて切り込んでくるハーシュノイズは脳裏にこびり付いた過去のトラウマが甦るかのよう。 「不完全な絵画」 は非常階段のカオティックな演奏をバックに据えたポエトリーリーディング。ズタズタに切り刻まれて歪められたサンプルの断片、ジリジリと身体を焦がしていくようなノイズ、そして一切の感情なく淡々とした口調で安らかな諦観を語るミク。この歌詞、歌声、サウンドが描く情景はある種の極限状態のひとつなのかもしれません。ラスト 「hatsune-kaidan」 は最も本来の非常階段らしい冷徹非常なノイズ。一応初音ミクも音の中に取り込まれているようですが、ノイズの業火に焼かれたせいで声はほとんど悲鳴と化し、もはや原形を留めていません。


数ある非常階段コラボレーションの中でも特に異色だと謳われる今作。しかし非常階段メンバーの中ではある程度ビジョンが見えていたのでしょう。 「非常階段が初音ミクを使うとしたらどういう作品を作るべきか」 を、彼らは完全に理解しています。特に歌モノのカヴァーは今回のような企画でしか出来ないと思いますが、選曲もアレンジもドンハマり。音声の無機質さを活かして薄ら寒い空気感を作り上げ、ある意味人間よりも人間らしい感情の深みを見せる。ボーカロイドの苦手な自分でも、この薄気味悪い無常感には背筋の凍るような感覚を覚えました。初音ミクの特性と非常階段の強烈な個性がギチギチと奇怪な音を立てて融合した、すでに今年一番とも言える怪盤です。


ボーカロイド初音ミクとノイズバンド非常階段のコラボレーション作品。


Rating: 8.0/10