My Bloody Valentine 「m b v」


リリースされた後でも半信半疑な感があるし、実際に音を聴いても半信半疑なままでいる。


マイブラです。シューゲイザーの元祖と言うよりも、マイブラでしかない音です。要塞のようなエフェクターボードと変則チューニング、脳漿を揺らす爆音と夢魔の囁きのようなヴォーカル、そして聴き手を意識の深淵へと引きずり込むミニマリズム。最初の3曲は 「Loveless」 の幽玄世界をほとんどそのまま再構築したサイケ/ノイズ・ポップで、マイブラを躍起になって聴いていた懐かしい頃が一気に眼前にフラッシュバックします (俺はリアルタイムでは無いですけども) 。しかし 「マイブラの再来!」 と謳われたバンドは今までに多くいたと思いますが、それらフォロワーとはやはり確実に一線を画しています。ギターノイズの密度、方向性の徹底っぷり、裏側に潜む狂気的ダークネス、といった点で。


そして4曲目からは状況が一変。ギター成分が減った代わりにシンセと Bilinda Butcher の歌声をフィーチャーした楽曲が続き、窓を開け放って風が流れ込むような心地良さを覚えます。このアンビエント感もマイブラには元来から備わっていたものですが、バランス配分を変えただけでこうも新鮮に響くものかと目から鱗の心地。そして終盤ではダンサブルなブレイクビーツを盛り込んだ 「In Another Way」 、初期のガレージパンク精神が突然棘を剥き出した 「Nothing Is」 、ドラムンベースの疾走感でこの世ならざる世界へ向かう 「Wonder2」 と実験曲の連発。これらはおそらく 「Loveless」 以降に彼らが試行錯誤を繰り返してきたアイディアの断片でしょう。


正直、新譜と言うよりも過去の未発表デモ音源集といった印象の方が強いです。重鎮の凄みが詰め込まれているわけでもなく、革新的なアイディアが見られるわけでもない (むしろ終盤などはひどいくらいに90年代的だと思う) 。ただ、ひたすら奇形じみてる。シューゲに括られる音楽の中でもっとポップなものは他にもあるし、現代的でスマートなものは他にあります。彼らはその他のバンドと交わらず、ひっそり孤独にサウンドの調合を繰り返すのみ。シューゲイザー入門にはあまり薦められない、オリジネイターにしてすでに異形の例。判断は難しいですが、現時点では以下の点数です。


約22年ぶりとなるフルレンス3作目。


Rating: 6.5/10