ムック 「シャングリラ」

シャングリラ(初回生産限定盤)

シャングリラ(初回生産限定盤)


アンティークからシャングリラへと続く道程、って考えると何だか感慨深いものがあるなー。


序盤は開放感溢れる打ち込みサウンドと従来のメタリックな攻撃性を噛ませ、即効性の高さでフィジカルを強く突き上げる楽曲が続きます。可変速ヘヴィサウンドとトランスの組み合わせがほとんど Enter Shikari な 「Mr. Liar」 に始まり、力強いコーラスから Skrillex ばりの豪快なエディットへと流れ込む 「G.G.」 、そして煌めく夜空を駆け抜けるような疾走感、その中に澄んだ切なさを滲ませた先行シングル 「アルカディア」 「ニルヴァーナ」 。ここ数作で取り入れていたダンス/エレクトロへの意識の高さがさらに上昇し、現在の彼らにおける王道モードはコレなんだと高らかに主張しています。この心地良さはなかなか鮮烈なもの。


ただ先行シングルから予想されたほど全編エレクトロに振り切れてるわけでもなく、曲が進むにつれて彼らの雑食体質が顔を出してきます。昭和フォークの湿っぽい哀愁が味わい深い 「終着の鐘」 、洒脱なスウィング・ジャズナンバー 「ピュアブラック」 と過去の路線が復活したかと思えば、まさかのほのぼのウェディング・ソング 「Marry You」 や、壮大なスケール感と慈愛に満ちた 「MOTHER」 といった新機軸もあったり。


この雑食というか何でもやりたがりというか、雑多なまでのレンジの幅については少々複雑な気持ちが残ります。個人的には序盤のエレクトロ路線が十分力強さを感じさせるものに仕上がってると思うし、曲調があっちこっちに振れるのが先の読めないスリル感と言うよりも、ひとつのアルバムの中で妙に距離感があって散漫に感じてしまう (特に 「Marry You」 なんかはそれこそボートラ扱いで良かった) 。相変わらず彼らの中にはやりたいことが山積しているのでしょうけど、もう少し的を絞ってほしかったなーと。 「シャングリラ」 の世界がプリズムのような多面的な輝きを持つものだとしたら、そのカラフルさは打ち込みを消化したバンドサウンドだけで十分表現できるはず。


約2年ぶりとなるオリジナルフルレンス10作目。


Rating: 6.7/10