神聖かまってちゃん 「楽しいね」

楽しいね

楽しいね


すでに年間ベストを挙げた後ではありますが、取りこぼしが多いのもアレなので少しずつ攫っていきます。


一昨年、昨年のハイプな持ち上げられ方は落ち着いて、今作はセールス的にもちと厳しい感がありましたが、楽曲自体は例の如くネット上に先行して挙げられていたのを聴いて分かる通り、順当に曲調/表現の幅を広げ、ポップスとして地力を強くしているのが分かります。スケールの広さを壮大とも言えるまでに押し広げた先行シングル 「知恵ちゃんの聖書」 、多重コーラスがミステリアスな浮遊感を醸し出すかまってちゃん流シューゲイズ 「コンクリートの向こう側へ」 、ケルティックな意匠を施して軽やかな中にも物悲しさが漂う 「ペルセウスの空」 、似非ゴシックな不穏ムードで切羽詰まった攻撃性を剥き出しにする 「花ちゃんはリスかっ!」 と、の子の言う 「ホーリー感」 をキモにしたアイディアが光る佳曲揃い。その他にも 「仲間を探したい」 「2年」 などは単純にポップロックとして良質なクオリティを維持しています。


そして 「楽しいね」 というアルバムタイトル。以前は外の世界に対して斜に構え、背を向け、憧れと表裏一体の悪意を向けた歌詞世界が強烈でありましたが、今作では 「2年後に2年前の自分を笑い飛ばせるように」 「僕のストーリーをえんぴつで書いてこう」 と、明らかに前を向いたポジティブなメッセージがメインを締めており、現在のの子のモードが以前とは切り替わっているのがよく分かります。急激な環境の変化が彼ら、というかの子にある種の責任感、強さを芽生えさせた故でしょうか。 「友達なんかいらない死ね」 や 「花ちゃん〜」 のようなダークサイドもあるにはありますが、それらは鬱屈した感情を激しく吐き出しながらも、情景や感情をユーモラスな歌詞で描写/説明してるあたりから、それを何処か冷静に俯瞰したような印象を受けます。それが良いか悪いかはさておき。


ただ、これもまた例によって、すでにの子はネット上に次なる新曲 「ロボットノ夜」 「まぼろし大好きっ!」 を発表。これがまた一気にダークサイトに落ちたインパクト大な曲でありまして。これは冷静な俯瞰ではなく、 「天使じゃ地上じゃちっそく死」 「黒いたまご」 などに通じる、己の負の感情をフィルター通さないままダイレクトに吐き出した怪曲。こんな風に躁と鬱を行ったり来たりしながら、生々しく 「人間」 らしさを体張って描き出すバンドマンは現在では他にいない。意外にしぶとい彼らのドキュメンタリーはまだまだ続きそうです。


1年3ヶ月ぶりとなる5作目。


Rating: 8.0/10