転校生 「転校生」

転校生

転校生


それにしても、この名前、このジャケットはずるい。


俺が通っていた小学校は1学年につき1クラスしかなかったので、ほとんど同じメンツで6年間を過ごしていました。それぞれの性格や役割もすっかりクラスの中に当たり前のように馴染んでいたところ、高学年の頃に転校してきた女の子には何処かしら謎めいた魅力があり、新しい季節の風のような異質の空気をもたらしていました。最初は大人しかったものの皆とはすぐに打ち解けて、よく笑いよく遊ぶ子だったのですが、端正な顔立ちや佇まいなどに何処か大人びた翳のある雰囲気、他の子とは少し違った洗練された落ち着きを持っていて、俺は彼女におぼろげな憧れのような感情を頭の片隅でずっと感じたまま、卒業を境に会うことはなくなりました。


転校生は転校生というだけでグラフィティに成り得る説。


そしてこの作品。 「きっとだれも見ていないさ」 「嫌ってくださいね わたしのこと」 頭で割り切った疎外感とは裏腹に、心は誰かを求める。けれど 「本当のことをきみは言わない 僕も言わない」 。そして 「血塗れたはさみの絵空事」 からパラレルワールドへと続く。いつの時代でも迷えるジュブナイルは歌を求めるし、表現を求めるのだなあと。世界観の打ち出し方としては歌詞/装丁含めて綺麗に焦点が定まっており、幸か不幸かシンクロしてしまう人は多いでしょう。ただ楽曲自体はオーソドックスでクセのない清涼ポップス。メロディに何処となく aikoチャットモンチーの面影があるものの、強く耳を惹きつけるというほどまでにはいかず。正直こういったタイプの歌い手は周期的に (それこそ季節のように) 現れてはプッシュされるもので、個人的な印象としてはハイプの域を出ていません。


精神的な繋がりを求め、それに纏わる痛みを吐き出しているようでいながら、その痛みが遠い過去を見るような形で美化されている気がして、それがリアリティに結びつきにくいのですね。ドロドロしていなければいけないとは言いませんが、人工的に仕立てられたノスタルジーは、やはり現在進行形で苦しみもがいている人と比較すると、弱く感じてしまいました。あと女性と男性の違いというのもあるような気がするけど、これ偏見になるかな。


熊本出身のシンガーソングライターによるデビュー作。


Rating: 5.0/10