illion 「UBU」

UBU

UBU


ラッド聴いたことないけど。


ピアノやストリングス、あるいはバンド編成による生演奏とエレクトロニクスの有機的なマトリクス。そこから生まれるサウンドスケープは牧歌的で何処かファンタジック、しかし荒涼とした冷たさやある種の毒も内包しており、ちょうど Radioheadトクマルシューゴを足して割ったような、インテリジェントで内省的な作風になっています。海外インディの質感を強く意識したところがありつつ、日本人らしいポップ感が滲み出てる部分もあったり、そこには海外進出を目論むある種の気張りが読み取れなくもない…まあそんな深読みは音楽聴く上では必要ないですけども。


荘厳な美しさで入り組んだ迷路のような今作の幕開けを宣言する 「BRAIN DRAIN」 、古語を用いた歌詞とメロディが仄かにオリエンタルな雰囲気を醸し出す 「MAHOROBA」 、複雑骨折したファンクグルーヴがアグレッシブに迫る 「BEEHIVE」 、タイトル通り柔らかな声の重奏をメインとした 「GASSHOW」 など14曲。優しいフォーク曲や音響的な実験曲、場面によってはモロに 「Hail to the Thief」 あたりのレディヘだったりするのですけど、彼の元来持つメロディ感覚、ヴォーカルを武器とすることでアイデンティティを持ってるかと。


正直、 「日本人があえて海外向けに意匠をこらした」 という感覚が良くも悪くも目につくのですけど、単純に最近のエレクトロ・インディロックとしては自由度高く、不思議な色味が出ていて面白いのではないかなと思います。ひょっとしたらこういった音楽性をバンドに持ち込みたかったけど無理があった…という思惑もあるのかしら。まーきっとバンド本隊のイメージを抜きにして聴いた方が楽しめるでしょう。


野田洋次郎RADWIMPS) によるソロユニットのデビュー作。


Rating: 6.7/10


OGRE YOU ASSHOLE 「confidential」

confidential

confidential


秘密であるが故の背徳感。


サイケ/クラウトロック化著しい最近のオウガですが、今作ではすっかり己の血肉と化したそのサイケデリアを過去の楽曲にまで持ち込み、より一層スウィート、なおかつ神経性の毒素が盛り込まれ、インテリジェントな変態性を目一杯に発揮しています。ずぶずぶと底なし沼に嵌っていくような、生温い心地良さと裏腹の緊張感。アルバムタイトル通り秘匿にしておいた方が良かった具合の妖しさは、原曲を知らない方でも、知っていれば尚更、脳髄から末梢へと身体を侵していきます。


桃源郷のような甘美な浮遊感がウィスパーヴォイスで助長された 「真ん中で」 、落ち着いたテンポで AOR ソウル風の意匠が盛り込まれた 「また明日」 、スペーシーな深みと土着的ファンクネスが密接に絡み合う 「フェンスのある家」 、骨組みだけ残してシュール極まりない姿となった 「フラッグ」 、曲名と真逆を行く不穏なダークネスが吐き出される 「素敵な予感」 など8曲。サイケ、ソウル、ファンクといった要素が主体となり、横ノリのグルーヴを徹底追及している現在のオウガだからこその魔改造ナンバーがズラリ。


しかしながら、今作を聴いた後に改めて原曲を聴いてみると、どちらのテイクにも違和感を感じないのですよね。元来の彼らは所謂ギターロックではありましたが、単なるポップロックでは終わらない懐の深さがあったし、複雑で理知的なアンサンブルと牧歌的なメロディという点では常に共通してる、故に今のオウガによるアレンジもナチュラルなハマり方。だいたいこの手のリテイク作って原曲の持つ良さを超えられないことが多いのですが、これは別。過去から現在に至る変化の道程がごく自然であったことを雄弁に語るような、無理のない新しさが詰め込まれた良作であると思います。


初となる過去曲のリアレンジアルバム。


Rating: 8.0/10


SUGIZO 「VESICA PISCES」

VESICA PISCES

VESICA PISCES


信念のトランス。


SUGIZO のソロにおいては時期ごとにリミックス盤が作られていますが、いずれも原曲の持つ世界観、音楽要素の一面をクローズアップ、拡大して展開する仕上がりで、リミックス盤でありながら SUGIZO 本人のイズムも強く感じさせる良盤でした。今作もしかり。基本は足腰の強い4つ打ちトランスを主軸としており、ダンサブルなグルーヴとスペーシーで重厚な質感を両立したトラックが揃っています。これはリミキサー陣が SGZ サウンドというものを十分に理解しているからこそ成せる業でしょう。


ダブの深淵が徐々にその闇を広げていく The Orb vs Youth 「CONSCIENTIA ERA」 、デジタルハードコア×ミクスチャーのアグレッションに満ちた Joujouka 「ENOLA GAY RELOADED」 、真っ当な仕上がりながら実に彼ららしい Juno Reactor 「TELL ME WHY NOT PSYCHEDELIA?」 、最近流行の EDM で異色を放つ DJ AMIGA 「REPLICANT EDGE」 、そして静謐を湛えた音響ギタースペクタクル SUGIZO 「ETERNAL FATIMA」 など11曲。シリアスで痛々しいほど真摯、陶然とするほどの聖性で貫かれたダンストラックス。


何だったらこれら全てシームレスに DJ MIX してしまえばもっと面白かったと思いますが、洋邦老若問わず集ったリミキサー陣が自らの個性を打ち出し、 SUGIZO という小宇宙と衝突する際の交差点、そこに垣間見える別次元がこれでもかと言うほど詰め込まれた、実に質量の濃い作品です。トランスという一見シンプルなジャンルの、そのシンプルさ故の奥深さを実感できると思います。


「FLOWER OF LIFE」 「TREE OF LIFE」 収録曲のリミックスアルバム。


Rating: 7.8/10

電気グルーヴ 「人間と動物」

人間と動物(初回生産限定盤)(DVD付)

人間と動物(初回生産限定盤)(DVD付)


唯一の動物らしい動物が牡蠣とは。


全編ほぼ同じ BPM で統一された歌モノアルバム、というコンセプトありきのこのアルバム。電気で歌モノと言えば当然思いつくのは 「Shangri-La」 や 「N.O.」 などですが、今作ではそこまで切なさや甘さの立った場面は少ないです。語感重視のヴォーカルは歌とサウンドの中間のような位置づけで、基本は洗練されたエレクトロサウンドの窓口を広げるガイドみたいなもの。トータリティはありますがそこまで肩肘張った感じはなく、全体的にはコンパクトに収まっていてある種の余裕が感じられるような内容です。


とは言っても 「P」 の中詰では泥酔状態のボイスパーカッションがカオティックに展開したり、時にはキチガイ中年の悪ノリが頭をもたげる場面も。他ではアンニュイな憂いが心地良く流れる 「Slow Motion」 や、シングル曲 「Missing Beatz」 「Shameful」 のファンキーな格好良さはさすがマエストロ。ただやはり初期のやけっぱちなバカバカしさや革新に挑戦する中期に比べれば随分とあっさりした味ではあるので、往年の凄みを期待すると肩透かしを食らうかも。良くも悪くもベテランらしい落ち着きが最も印象に残るアルバムでした。


3年半ぶりとなる12作目。


Rating: 6.2/10


ユナイテッドモンモンサン 「フォスフォレッセンス」

フォスフォレッセンス

フォスフォレッセンス


リア充は進む。


快活なガールズ・パワーポップ路線はそのままに、ますますキュートさや瑞々しさに磨きをかけた良曲揃い。キラキラドリーミーで激キャッチーな 「ロンリーナイト HYPER」 に始まり、キッチュな80年代風シンセポップ 「少女漫画シンドローム」 、グルーヴィなヘヴィリフがガツンと響く 「恋のファンタジー」 、性急なスウィングが小気味良いスピード感で踊らせる 「Zoo ZZZ Zoo」 など7曲。またしてもコンパクトな尺ではありますが、それぞれの粒が立った楽曲群で彼女らのクリエイティヴィティに脂が乗りつつある、勢いを感じさせる内容になっています。


ところで今の生活に不満や喪失感を感じている人はおよそこの世の9割以上だと思いますが、これだけポジティブなポップロックを演っている彼女らも当然そう。誰かに必要とされたい、もっと良く見られたい、そういった日常における欲求はいくら年月を重ねたって湧き出るもの。このバンドはそういった鬱憤をバネにして、明日からを笑って生き抜こうとするパワーに変える。これはありふれた表現かもしれませんが、簡単そうに見えて実は凄く難しいこと。決して能天気ではなく、切なさや翳りがあるからこそサウンドのキラメキも一層映えるというもの。何かひとつの切っ掛けでブレイクするポテンシャルは十分秘めていると思います。


大阪出身の4人組による、1年2ヶ月ぶりミニアルバム2作目。


Rating: 8.1/10


Doldrums 「Lesser Evil」

Lesser Evil

Lesser Evil


子供の遊び場。


エレクトロニクスという至高のおもちゃを手に入れて、やりたい放題に音を弄り遊んだ楽曲群。イントロを抜けての 「Anomaly」 はウィッチ・ハウス風のミステリアスで冷たいサウンドスケープを展開した、かと思えば 「She is the Wave feat. Guy Dallas」 は最近隆盛を誇る EDM をチープな音像で孫引きしたような曲だし、タイトル通りエキゾチックな雰囲気を微妙に醸し出す 「Egypt」 は Gang Gang Dance を思い出したり、アトモスフェリックなノイズ音をコラージュした 「Lost in Everyone」 は This Heat あたりが憑りついたよう。新旧様々なエレクトロ・サウンドの影響を受け、それらを乱雑なままで吐き出した、ある種のカオスが広がっています。


そして今作の主要素はタイトル曲 「Lesser Evil」 に凝縮されてるような気もします。高らかなヴォーカルが響いては不可解なリズムが切り込み、拡散するシンセ類は全ての視界を遮る濃霧みたいで、プログレッシブな曲展開とともに聴き手を迷宮の中に誘い込むかのよう。これは計算され尽くしたインテリジェンスと言うよりも、やはり無邪気で気まぐれ、自由奔放な落書きといった方がしっくりくる。本当に天然だとしたらちょっと凄いなこれ。


冷たくダークな空気感と、ヴォーカルを立ててキッチュでポップな質感を残してる、という点は辛うじて全編共通しています。しかしそれでも無軌道に音が飛び交ったり、ヴァラエティに富み過ぎの曲調が意地の悪い含み笑いを持って聴き手を翻弄する。 遊び心満載のクセの強い内容に仕上がっていて飲み下すには少々時間がかかりそうですが、妙に意識を惹きつける魅力があるのも確か。 Grimes や Crystal Castles に共通する部分が多くあるとも思いましたが、よく考えれば Grimes とかみんなカナダ出身なんですね。何か変な磁場でも生まれているのだろうか。


カナダ出身、 Airick Woodhead によるソロユニットのデビュー作。


Rating: 7.8/10


DISH 「春と訣別と咲乱」


日本人らしいロックとは。


ある人はエレファントカシマシだと言うだろうし、あるいは BLANKEY JET CITY と言う人もいるだろうし、 NUMBER GIRLゆらゆら帝国、その他諸々例を挙げればキリがありませんが、大体において共通しているものは真っ直ぐな武骨さと滲み出る色気、それらが入り混じって光り出す渋味、のようなものだと思います。その味はこのバンドからも発せられています。ジャンル的にはヴィジュアル系に当たるわけですが、ラフにささくれ立ったオルタナティブ (時にシューゲイザーサウンドはこの界隈では珍しいもの。常にシリアスな切迫感とナイーブな翳りを帯びて、喉を擦り切らせて叫ぶその様にはロックの持つロマンチシズムが満ちています。


壮大なスケール感で轟音と逃避願望が響き渡る 「箱船」 、ディスコビートが洗練ではなく妖艶ないかがわしさを振り撒く 「SNOW EMOTION」 、そして 「サミダレイン」 以降の疾走曲畳み掛けなど、ライブを意識したドライブ感であったり、エモーションを剥き出しにした歌唱には惹き込まれる場面が多いです。ヴォーカルは吉井和哉と高野哲が憑依したところに怨念注入したようなネチっこさで、これは好みを分ける所でしょうが聴き手にインパクトを与えるという意味では確実にロック的。 「ナミダレイン」 などは正しく絶唱といった感じで、ひりつくような痛みと共に説得力が感じられます。


メンバー2人という編成やジャケットから受けるイメージを大きく裏切られているのですが、ダークな淫靡さとともに生々しく刹那的に感情を吐き出す、そのリアリティに思わず唸らされました。 モノクロームに色褪せた寂寥と強く吹き付ける冬風のようなギターサウンドヴィジュアル系に留まらず王道的なロックの路線上にあるものだと思うし、きっと多くの人に引っ掻き傷を残す内容ではないかなと思います。


2007年結成の2人組による初フルレンス。


Rating: 8.5/10