amber gris 「AROUND CHILDREN」

AROUND CHILDREN<初回版>

AROUND CHILDREN<初回版>


この初回盤はいい初回盤だ!


前作 「pomander」 は優雅で牧歌的、時にダークな彼ら独自の幻想世界を描いた傑作でした。今作ではそこから一歩抜け出し、単純にロックバンドとしての骨組みを強化した印象を受けます。再生した瞬間から堰を切って溢れるスピード感の 「Fragile」 や、先行シングル 「bright or blind」 などは直線的でキレの良い真っ当な V-ROCK だったり、太いベースを軸にファットなグルーヴを撓らせる 「Sweet blood pool」 、ダンサブルなリズムで荒々しく迫る 「グランギニョル」 などライブ向けのロック曲が目立ちます。その一方でメロウで優しく、雄大な広がりを見せる 「そこにあるもの」 「amaryllis」 では前作から地続きの魅力を見せていたり。


全体的にロック的なスケールアップを図ったことから、よりオーバーグラウンドな世界を目指そうという意志を感じたのですが、それはまるで L’Arc〜en〜CielLa’cryma Christi が作品を重ねるごとに幻想性を脱ぎ捨ててポップ/ロック化していった、その変遷とイメージが重なります。そういえば 「グランギニョル」 のイントロなんかは 「READY STEADY GO」 みたい、ってこれは蛇足ですね。決してバンド本来の持ち味が失われたわけではないけど、前作のイメージを未だ引き摺ってる自分としては、少し面喰らった部分もあったりします。


過渡期的な作品になるのかな、と個人的には思っています。物語的な世界観と、サウンドのビルドアップを両立するバランスを模索してる、その途中段階のような感があり。前作の充実っぷりと比べるとどうしても見劣りしてしまいますが、いやしかし純粋に良い曲は多いし、 「bright or blind」 なんかは性急なスピードの中で緻密に絡むアンサンブルが非常に格好良く、ベタな疾走感の中にも彼ららしさがしっかり出てる。ここからどういった発展を見せるのか、まだまだ彼らに対する興味は尽きません。


1年7ヶ月ぶりとなる2作目。


Rating: 6.6/10


Moran 「jen:ga」

jen:ga (初回限定盤)

jen:ga (初回限定盤)


うっかり初回盤買ってしまったりするのでV系商法は誰が何と言おうと悪。


ピアノやヴァイオリンを導入した 「薔薇色の地獄」 にロカビリー風のスウィングで捲くし立てる 「紅差し」 と、ジャズ要素の強い楽曲をオープナーに据えることでオリジナリティをハッキリと打ち出しています。こういったジャジーな曲調というのはV系には割とよくあるネタですが、彼らはジャズの持つ洒脱なグルーヴ、ムードに対して他バンドよりずっと高い意識を持ってることが伺える…しかし次の 「ロワゾ・ブルー」 では原色のシンセと性急なディスコビートが切り込むアッパー曲、ってあれー?


その後は基本的にアッパーな楽曲がメインを占めているのですが、ヘヴィネスに頼らない緻密なギターを軸に、何処か深遠でミステリアスな奥行きを持ったサウンドを展開しています。少しばかり Plastic Tree などを彷彿とさせる所がありつつ、冒頭のジャズナンバーであったり、 「Wing or Tail」 では牧歌と淫靡が入り混じった奇妙な色合いを見せたり、様々な曲調にトライしながら確かにこのバンド独特と言える個性は共通して存在します。シリアスなスピード感が映える 「Eclipse」 などは所謂キラキラ系がやってても良さそうな曲調ですが、彼らがやるとそこまでキラキラせずに幻想的なイメージが残るのが不思議。


しかし今作中最も激しい 「Maybe Lucy in the Sky」 などは手を広げすぎていて浮いている気もするし、ヴァラエティに富んでると言うにはまだ少々脇が甘い印象を受けます。個人的には彼らにノリの良さはそこまで求めないから、それよりもっとカッチリ世界観を作り込んだディープな作品を聴きたいと思うのですがどうでしょう。変なお約束とか気にせずにやりたいようにやってほしい。同じ元 Fatima であればバンド名通りに色んな意味で儚かった obscure みたいに。


2008年結成の5人組による初フルレンス。


Rating: 6.8/10


花澤香菜 「claire」

claire

claire


ところで渋谷ってどんな街?


ROUND TABLECymbalsカジヒデキラヴ・タンバリンズと90年代渋谷系ポップス作家が全面参加し、ネオアコ、ボッサなどを基調とした生バンドサウンドやエレクトロポップなどを隙なく揃えた今作。勢揃いの今作。清冽で、カジュアルで、洒脱で、何よりキュート!坂本真綾の近作や豊崎愛生のアルバムなんかも近しい傾向にあるかと思いますが、これが最近の声優ポップスの新しい主流なのでしょうか。水樹奈々などとは別の意味で90年代から連綿と続くポップスの正義を、彼女にも適用しようとしているのでしょう。


軽やかな疾走感が目映い視界へと抜けていくような 「青い鳥」 「初恋ノオト」 「シグナルは恋ゴコロ」 などは今作のメインストリーム。また 「ライブラリーで恋をして!」 は目一杯の笑顔で歌うカジくん (主役を差し置いて) の姿が目に浮かぶようだし、ファンキーなベースラインが格好良い 「melody」 なんかも良いアクセント。これらの楽曲の中心となる花澤さんのヴォーカルは曲調に左右されないほぼ一定のトーンで、ずーっと和やかに緩やかに Kawaii ムードを放出しているのです。故に妙な統一感。


自分にとって90年代を振り返る上で渋谷系って最も遠い存在にあったわけですけど、曲だけ聴けば実にウェルメイドなのに何故やたらとスノッビーな印象があったのでしょうか。ここにあるのは余計な批評性やインテリジェンスなど排除し、花澤さんの魅力を引き立てることに注力した、ライトなようで実は正義的な普遍的ポップの魅力です。


余談だけど、出来れば bice が参加していてほしかった。出来れば。


東京出身の声優による初アルバム。


Rating: 7.6/10


0.8秒と衝撃。 「【電子音楽の守護神】」

【電子音楽の守護神】 ※初回盤

【電子音楽の守護神】 ※初回盤


果たして守護神は降りたのか?


アッパーな打ち込みサウンドに噛み付くようにして融合するバンドサウンド。いわばインダストリアルとオルタナ/パンク、双方のアグレッションを交えて多角的に音が迫ってきます。男女ツインヴォーカルは互いの特性を生かしたコンビネーションで、こちらもやはり多角的。さらにはキッチュで斜に構えたユーモア満載で、インダストリアル特有の重苦しさを払拭したポップさがありつつ、真摯な思いを乗せた叫びもそこには存在するという。


しかし何というかこう、もどかしい。これは前作を聴いた時にも感じましたが、変に奇を衒ったアイディアがあまり有効に機能してないように思います。アクセルとブレーキの使い分けが先の読めないスリルではなく、突っ込みたいのに突っ込めない歯痒さに陥ってしまってる。以前よりはストレートな曲調が揃っているのですが、結局のところ一番の魅力に感じるのはそのストレートな部分 (メロディにしろ攻撃性にしろ) だったりするので、背中のむず痒くなる変化球は蛇足だろうと。


ラテン風の躍動感と共に最もメロディが立った 「ストロベリーシンセサイザー」 と、キラキラした明るさが異色なロックンロールナンバー 「Freedom FOREVER.」 は出色の出来。しかしこれらはアルバムの中では異色作で、おそらく俺は彼らがもっとポップネスに意識的になるまで受け入れることはできないのかなあと。彼らのやりたいこととこちらの欲求の乖離をまたしても感じてしまった作品でした。


1年9ヶ月ぶりとなるフルレンス3作目。


Rating: 5.2/10


Atoms for Peace 「Amok」

Amok

Amok


嵐が来る。


シャープで神経質なエレクトロビートは、昨今のポスト・ダブステップ要素を取り入れつつアフロビート的な躍動感を見せる場面もあり、 Thom Yorke のヴォーカルはいつものように優しく穏やか。しかしそれらを包む空気感は一貫して冷徹です。ラップトップ内で作成したフレーズの断片をネタにバンドでアイディアを広げていったとのことですが、トムのソロ 「The Eraser」 や Radiohead 「The King of Limbs」 に通じる所が多くありつつ、さらに洗練され、無機質に研ぎ澄まされた印象を受けます。歌メロがアブストラクトになってバンドサウンドの一部と化し、空間的サウンド志向になったというか。


あまり Talking Heads 詳しくないけど Talking Heads ぽいと思った 「Before Your Very Eyes...」 に始まり、水中を漂うような軽やかな浮遊感が広がる 「Default」 、今作中最もダークな、息の詰まるほどの緊張感が漲る 「Unless」 、複雑骨折したような奇怪なダンスグルーヴ、そこに美しさも介入する 「Judge, Jury and Executioner」 など9曲。聴き手に強く内省を迫る冷たさ、静けさが常に裏側に潜んでいて、それは何だか来たるべき嵐の予感のよう。


散りばめられたビートの破片は弾けるシナプスのように複雑に入り組んでいて、踊らせるよりも身体を凍てつかせる実験性の方が前面に出ていますが、きっとこれがメンバー自身にはパッショネイトで肉感的なものなのだろうし、きっとその本質はライブで証明されることでしょう。数年前のフジロックでのパフォーマンスは 「The Eraser」 の音世界を拡張し、冷たさが麻痺して次第に熱さに変わっていく、新たな一面を見せた素晴らしいものでしたから。現場でどれだけ化けるか想像するのが面白い作品でもあります。


Thom Yorke 、Flea らを擁する5人組の初フルレンス。


Rating: 7.1/10


Pissed Jeans 「Honeys」

HONEYS (IMPORT)

HONEYS (IMPORT)


逃げろ!すげえ怒ってる!


今にもはち切れそうなエナジーを抱え、土煙を上げて爆走する純正ハードコア・パンクです。青筋浮かべながら矢継ぎ早に言葉を捲くし立てるヴォーカル、ギッチギチに歪んだ鈍器のようなラウドギター、いなたくバタバタと転げ回るリズム隊。各パートのいずれもが明らかに外部に対する敵意を剥き出しにし、やさぐれたガラの悪いアグレッションを叩き付けてきます。メタル成分は無くノイジーでジャンク、しかしそこには泥臭いロックンロールの旨味が濃縮されており、問答無用でフィジカルを突き上げる熱気がムンムンと充満しています。


「Bathroom Laughter」 「Vain In Costume」 「Cathouse」 などドライブ感満載のショートカットなハードコアチューンが並ぶ一方で、えげつない歪みでスラッジの悪意が牙を剥く 「Chain Worker」 「You're Different (In Person)」 、さらには飛び道具的ノイズ曲 「Something About Mrs. Johnson」 なんていうろくでもない曲もあり、ある意味本来のロックが持ち合わせているひり付くような緊張感、近寄りがたい火薬のキナ臭さがこのバンドには備わっています。


Minor Threat や Black Flag などの 80's ハードコアから The Jesus Lizard 、Helmet といった 90's ポストハードコアへと至る系譜を、彼らは正統に受け継いでいると思います。引き締まった肉と野暮ったい臭味、そして何より直感的にある種のヤバさを感じさせてくれるのが良い。アッパーな曲では熱を、ダルな曲では凄みを放つ荒くれ者たち。ロックンロールかくありなん。


ペンシルヴェニア出身の4人組による、4年ぶり4作目。


Rating: 7.7/10


Esben and the Witch 「Wash the Sins Not Only the Face」

Wash the Sins Not Only the Face

Wash the Sins Not Only the Face


現代版ゴス/ポジティブ・パンクであります。 The Horrors で言えば 2nd 、 The Cure なら 「Pornography」 、あるいは Blonde Redhead や The xx などに通じる所が多いと言えるでしょうか。空間処理を多用したバンドサウンドはポストロックを通過した故の緻密さとスケール感を併せ持ち、メロディはミステリアスで仄暗く、冷めた質感でありながら洗練されたポップさを持っています。ネオ・サイケデリアの澄んだ透明感、恍惚の浮遊感があり、ひとつ指を触れれば壊れてしまう脆さ、危うさがダークな雰囲気と相まって、心地良い緊張感を生み出しています。


幽玄な雰囲気を醸し出すアルペジオ、心地良いスピード感と流麗な歌声が一体となった 「Slow Wave」 、トライバルな躍動が緊張感を弥増す 「When That Head Splits」 、おそらく今作中最もギターロックとして分かりやすいポップさを見せる 「Deathwaltz」 、執拗に脈打つリズムで不穏なキナ臭さを放つ 「Despair」 など10曲。いずれの楽曲も陽の光に背を向けたダークネスに満ちていますが、あくまでポップな作りのためかおどろおどろしさや重厚さは意外に少なく、冷たい水のようにスムーズに浸潤する心地良さを第一に感じます。


ジャンルで言えばゴス系に当てはまるわけですが、その中でもこの世ならざる世界観よりかは内省的なナイーブさを見せる類であり、それとポップネスを両立するバランスが絶妙、というか日本人に受け入れられやすそうなポップ感だと何となく思います。 「Iceland Spar」 という曲名にもあるように、例えば Mew の持ち味である荒涼とした寂しさと神秘的ムードが入り混じった独特のオーラをこのバンドも持ち合わせてる…でも彼女らは普通に UK 出身なのね。まーそれはそれとして、非常に自分好みのサウンドにツボを押されっぱなしなのでした。


ブライトン出身の3人組による、2年ぶり2作目。


Rating: 7.5/10