あさき 「天庭」

天庭(初回生産限定盤)(DVD付)

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「おそらくこんな作品だろう」 と、分かっているようで分かっていなかった。遥か上を行ってました。


15曲70分超、うち10分近い大曲が3つ。もはや前作 「神曲」 がコンパクトに思えるくらいの質量。方向性としては変わらず、超絶技巧によって繰り出されるプログレッシブメタル+純和風のおどろおどろしいダークネスを孕んだ世界観+90年代でインディーズ、下手したら Matina 辺りの領域に突っ込む V-ROCK テイスト。何重にも折り重なる多彩なギターのテクスチャーに、つんのめっては走り出す予測不能なリズム展開。元々ニッチな上に異様な濃さを放っていたものが、長い年月をかけてさらに煮詰められ、他のものに一切混ざらない確固たる世界観を築き上げています。


冒頭に据えられたスラッシーでシンフォニックなタイトル曲 「天庭」 からあさきワールド爆発。禍々しくも深遠な美しさを湛えた複雑怪奇なサウンドスケープは、首根っこを掴んで引き込まれるくらいの力強さを持っています。さらには今の時代に有るまじきダークヴィジュ全開の 「魚氷に上り 耀よひて」 、昭和ジャジーな憂愁ムードが面白い 「行き過ぎて後に」 、今作における世界観の最深部を見せる 「まほろば教」 、そしてあさきの内なるエモーションが最も激しく発露した 「生きてこそ」 と、幅も奥行きもダイナミックに拡張された表現力の凄まじさ。 「愛のかたち 幸せのかたち」 「つばめ」 のような比較的ストレートな楽曲は自分のような第2次ヴィジュアルショッカーには堪らないものがありますが、そこはあさき、ストレートに見せながらも先の読めない緊張感が常にあり、ノスタルジーや安心ではなくスリリングで新鮮な魅力を放っています。


何重にも仕組まれた罠が聴き手をドロドロした闇の底へと引きずり込み、濃霧を掻い潜るようにしてカタルシスへと登り詰めていく。前よりヴォーカルが幾分か前に出てきたのもあり、ポップとマニアックのバランスがより高いレベルで均衡を保っています。最近の DIR EN GREY と共鳴する部分も多くあるように感じますが、おそらく日本人がプログレメタルを演るとして、最も理想的な形はこの作品じゃないかと思います。細かな SE や遊び心も含め、彼の内的世界が一切の躊躇いなく吐き出された超大作。


コナミ音ゲー作家による7年半ぶり2作目。


Rating: 9.3/10