the cabs 「再生の風景」

再生の風景

再生の風景


デスメタル/ブラックメタルは遍在する。


一聴してまず耳を奪われるのはドラムス。細かく刻み、急ブレーキ/急アクセルで切り替えしては破裂するシンバルワークに、随所でブラストビートも挟んでくる忙しない手数の多さ。変拍子にキメの嵐。それに呼応するようにベースラインは捻じれてはうねり、ギターは対照的に透明感あるアルペジオを乗せる。各パートは凛として時雨9mm Parabellum Bullet に肉薄する勢いで凄まじくテクニカルなフレーズを連発してくるのに、瑞々しく素直なヴォーカルとメロディがそれらをビシッと纏め上げ、下北系ギターロックの範疇に落とし込まれています。アンサンブルはデス/ブラック風なのに、全体の印象は ART-SCHOOLSyrup16g のようなナイーブで鬱屈した文系気質という。


「annschluss」 では 「『明日幸せになれるのか』 なんて飽きもせずに考えている/それはくだらないこと?」 と問い、 「ラズロ、笑って」 では 「僕らは寒い所へ行く、戦争があるんだって/今、離さないでいて欲しい」 と乞う。自己嫌悪や疑念、不安といった負の感情が、あまりにも澄んだ歌声で、まるで目覚めの朝日のように爽やかさすら伴って歌われる。アンサンブルがどれだけギチギチと難解な展開を見せても、絶叫を発しても、その歌は常に風通し良く澄んでいます。この異様さは何なんだろう。普段の日常が実は醜く歪んでいることを暴き出すような、不安定な美しさ。


スリーピースのシンプルな編成が描く情景は、細部に偏執的に拘りながらも遠目にはとてもシンプル。そこで発するエモーションは青く深い悲しみを湛えており、ナイフのような切れ味と冷たさを感じさせます。演奏の複雑さに拘らずイマジナティブな余白を残している、そのバランス感覚にも唸らされる。00年代のロキノン文脈を受け継ぎながらフレッシュな地平へと踏み出す、その開拓の第一歩となるであろう良作です。


3人組の初フルレンス。


Rating: 8.0/10