Plastic Tree 「インク」

インク(初回限定盤)

インク(初回限定盤)


俺は2枚組の初回盤を買いました。ある意味これは問題作。


まず本編。分厚いギターサウンドは濁った五月雨のように生暖かく憂鬱な感覚を残し、硬質なリズム隊は全体の印象が内側に向かい過ぎないように骨格の強度を保っています。透明感と荒々しさを併せ持った緻密なアンサンブル、そこに乗っかるメロディは微妙に抑揚抑え気味でサウンドに馴染む。今回いつにも増してブルーで冷たい雰囲気を纏った楽曲が多く、彼らが元来持っている持ち味が上手く発揮されてると思います。内省的で幻想的、端正だけど何処か歪なポップ感。


氷上を滑り落ちるような美しさと危うさが混在するエレクトロ・シューゲイズ 「ピアノブラック」 、タイトルと歌詞が無意味に意味深なフォークパンク 「あバンギャルど」 、訥々と零されるエモーションが思わず沁みてくる 「ライフ・イズ・ビューティフル」 、そして雲の切れ間から差す光のような美しさが広がる 「96小節、長き不在。」 。そういった彼らにとっての冒険心が見られる楽曲と、彼らの王道チューンと言える 「インク」 や先行シングル 「くちづけ」 「静脈」 がバランス良く配分されてる。このバランス感覚が保たれた上で全体のカラーは寒色に統一されているという。前作 「Thirteenth Friday」 ではネタ一発状態だったシューゲ要素もここでは十分に消化しているし、ここ最近の数作の中では最もトータリティの優れたアルバムではないかなと。


そしてボーナス盤 「Hide and Seek (Rebuild)」 。こちらは彼らのデビュー盤を丸ごと再録したわけですが、本編聴いたあとにこちら聴いて改めて思ったのが、今よりも遥かに内省、というか根暗。湿っぽく神経症的なダークネスが展開される 「痛い青」 に始まり、陶然とするほどの透明感が突き刺さる 「まひるの月」 、悪い夢のようなアグレッシブチューン 「ねじまきノイローゼ」 など。元々このアルバム、デビュー盤であるにも関わらずプラのカタログの中でも実験的な要素が強いのですが、そういった初期ならではのある種の刺々しさは今聴いても十分刺激的。あと当時は正リーダーが大きくイニシアチブを執ってたからか、全体的にベースがえげつない。


正直、聴く前は再録によってオリジナル盤にあった毒々しさが吹き飛んでしまうのではないかという危惧があったのですが、実際はそういった部分が無くは無いにしても、少なくとも 「Cut」 の再来にはならなかった。いずれの曲も過度にアレンジを変えることはせず、現在形の良い音で素直に録り直した感じ。オリジナルの作風、空気感を大事にしようという繊細な配慮が感じられ、古参、新参どちらのファンにも対応した内容に仕上がってると思います。そしてここにあるメロディや音作り、歌詞世界などにおいて最新作であるところの 「インク」 に繋がる部分も多くあるというのが、ファン的には思わずグッときてしまう。変わらない根っこが依然としてあり、そこから時間を経て咲いた花も、プラスティックの木には多くあるのだな、と。


1年8ヶ月ぶりとなるオリジナルフルレンス12作目。


Rating: 8.3/10