LIPHLICH 「SOMETHING WICKED COMES HERE AGAINST YOU」

SOMETHING WICKED COMES HERE AGAINST YOU

SOMETHING WICKED COMES HERE AGAINST YOU


ヴォーカルが清春芸人らしいというのが最初の取っ掛かり。


そんなひどい先入観をもって臨んだので随分驚かされました。ビブラートを多用する甘いハイトーンヴォイスは言われてみれば確かに清春の影響もあるかもしれませんが、セクシャルなネチっこさと不敵なクールネス、言葉を詰め込んで捲くし立てるスタイルはむしろ BEMANI 作家のあさきを彷彿とさせるもので、不思議とクセになる魅力がある。そのヴォーカルが作詞作曲も手掛けてるということで、おそらく自分の声質が調和する曲調、メロディというものを熟知してるのでしょう。十分に練り込まれた楽曲とのコンビネーションで、このバンド独特と言える個性をすでに確立しています。


ジャズやブルースを V-ROCK に組み込み、退廃的な昭和キャバレーテイストに仕上げた楽曲が多く並ぶ今作。キレよく軽快にスウィングする 「猫目の伯爵ウェンディに恋をする」 「僕らの使い捨て音楽」 、ディスコ風のダンスグルーヴが心地良く身体を揺らす 「グルグル自慰行為」 、情感たっぷりに歌い上げるバラード 「Recall」 、さらに後半に入れば疾走感に乗ってハードな音がザクザク刺さる 「嫌いじゃないが好きではない」 「メリーが嫌う午後の鐘」 などロック色を強めていく。多彩なシンセ類を交えつつリズム面に気を配るなどアレンジに変化球を効かせており、それが彼らの持つムーディな妖しさ、淫靡でカラフルなダークネスとでも言える独自のカラーに繋がっています。童話風のモチーフを交えつつ、曲タイトルにあるように周囲の音楽シーンに対する皮肉も込めた歌詞も面白い。


そしてラストに据えられた新曲 「BABEL」 はデジ風味ミクスチャーロックをエキゾチックに色付けした、彼らの持つ音楽性を順当に拡張する佳曲。メンバー皆演奏が達者で雑多な音楽性が詰め込まれているのですが、ヴォーカルの持つカラーがそれらを一本に纏め上げており、 「やってみた」 だけでは終わらないバンドの芯の強さを感じます。こういうある種の湿り気、翳りを持ったバンドがメインストリームにたくさん出てきてくれると嬉しいなー。キラキラ系とかメタル系ばっかりだとおじさん疲れるのよ…。


東京の4人組による、初のフルレンスを現メンバーで再録&新曲を加えた全国流通盤。


Rating: 8.5/10