Andy Stott 「Luxury Problems」

Luxury Problems

Luxury Problems


大問題!されど豪勢。


聴いてるうちに頭を過るのは Burial 、 Oneohtrix Point Never 、 Grouper など。おそらく R&B ポップスから孫引きした、情感豊かで清涼感のある女性ヴォーカルをカットアップ。呪術的な禍々しさすら感じる異様なベースラインの上に、水中から見上げる太陽のように煌めく歌声がゆらりゆらり。美醜の対比を明確につけ、そこに映し出されるシュールでダークな音世界は、大切なものを傷つけて汚す背徳的快楽にも似た感覚。


冒頭 「Numb」 はサンプルヴォイスの清涼感を活かす方向に比重が偏っていますが、それ以降はトラックを重ねるごとにミニマルの恍惚、ダブの深淵、ノイズの悪意が弥増していき、次第に息が詰まるほどの切迫した空気で意識を飲み込んでいきます。中詰の 「Hatch the Plan」 などはテクスチャーの重層を少しずつ移ろわせながらダークネスの濃淡をグラデーションさせて、霧を掻き分けて光へと向かうようなドラマチシズムを内包した、実に濃密な聴き応えのある大曲です。


コンクリート打ちっ放しの研究室で満足いくまで実験を重ね、最後に現れた 「Leaving」 は最もヴォーカルが前に出た、聖性すら感じるアンビエント曲。光と闇が混濁しながら渦を巻くような、ヘヴィな緊張感と心地良い浮遊感に満ちた音。ノイズ/エクスペリメンタルは聴き手をここではない何処かへ誘ってくれる好奇心に満ちているのが常ですが、ここに在るのも外界を完全に隔てた、彼独自の内的宇宙であります。


マンチェスターを中心に活動するテクノミュージシャンの、4年ぶり3作目。


Rating: 7.5/10