Bat for Lashes 「The Haunted Man」

Haunted Man

Haunted Man


アルバムタイトルは 「呪われた男」 ということでしょうか。しかし 「百合の花が香る」 「私は生きている」 祝福のように優しく鮮やかなオープナー 「Lillies」 で幕を開けます。自らの伸びやかで澄んだ声を活かし、柔らかいヴェールのように幾層かに重なるコーラスワークは、彼女の持つ内面世界の光と影を繊細に映し出しています。


エレクトロニクスと生音、そして彼女のヴォーカルが複雑に交錯し、ポップでありつつ独創的な音像を組み立てていく。その手法は前作 「Two Suns」 と同じですが、感情豊かな歌声に反してバックトラックはより前衛的な形をとり、安易なメロドラマ的に楽曲を盛り上げることを良しとせず、聴き手を先の見えない不可思議な領域へ引きずり込むように作られています。彼女が元来秘めている内面をさらに深く掘り下げたような、色味と光度の薄くなった世界。その一方で、悲しみを湛えながらも共に笑い歌おうと囁く 「Laura」 があったりする。迷路の複雑さと同様に、感情の深さも同じだけ比例しているよう。


正直、 「Daniel」 のようなキラーチューン (分かりやすいシンセポップ) もなく取っつきづらいところがあるので、前作よりも人を選ぶ内容かと思います。しかしエキゾチックでミステリアスな魅力はより研ぎ澄まされており、インテリジェントな曲構成の聴き応え、味わいは増しているかと。


3年半ぶりとなる3作目。


Rating: 7.4/10