Godspeed You! Black Emperor 「Allelujah! Don't Bend! Ascend!」

Allelujah! Don't Bend! Ascend!

Allelujah! Don't Bend! Ascend!


ここにあるのは讃美歌。声にならない讃美歌です。


ポストロックのオリジネイターとして常に妥協のない作品を作り続けてきた彼ら。長い活動休止期間もそのストイックな姿勢ゆえだったのかもしれません。ここにはポストロックやドローン、サイケ、ノイズといったアヴァンギャルドに属する音楽ジャンル、その全てを消化して極限まで煮詰めて鍛錬した、 GY!BE 以外の何物でもない一大音響スペクタクルが展開されています。それはもう、他の追随など一切許さない威厳と矜持、迂闊には近寄りがたい聖性/魔性に貫かれています。


リズムの躍動感が混沌の渦を徐々に拡大させ、中盤のエキゾチックなリフには宗教的なイメージが見え隠れする 「Mladic」 、この世ならざる世界が口を開けて全てを飲み込んでいくような不穏さに満ちた 「Their Helicopters' Sing」 、分厚い雲を割って空へ突き抜けるような力強さに圧倒される 「We Drift Like Worried FireAudio Track」 、そしてやがて穏やかな静寂に包まれる 「Strung Like Lights at Thee Printemps Erable」 以上4曲53分。うち20分超が2曲という相変わらず敷居の高い構成ではありますが、ミニマルな反復を繰り返す中での気の発し方、場面の切り替えの巧みさにより意識を惹きつける磁場の強さが半端ではなく、長尺曲をストレスに感じさせない彼らのポテンシャルの高さには舌を巻くばかりです。


90年代後半から始まったポストロックは一過性のブームに留まることなく現在も後進のバンドを生み出していますが、その中で彼らは時流と完全に切り離された、モノリスのような不変の存在感を保っています。ハードコアに通じる激しさと険しさを見せるギター、悲哀と狂気を湛えたストリングス、それらを一身に抱えながら大きな起伏を生み出すリズム。聴き手にも強く内省を強いる、言葉よりも雄弁に情景/感情を綴る真摯な音楽。それは厳格なようでいてひどく優しく、嵐のような凄みを放ちながらも何故か儚さを感じてしまう、音楽に生命を注ぐ人間たちのひとつのドラマなのです。


10年ぶりとなる4作目。


Rating: 8.5/10