禁断の多数決 「はじめにアイがあった」

はじめにアイがあった

はじめにアイがあった


音楽オタクの、音楽オタクによる、音楽オタクのための音楽。


さらに言えば Pitchfork を毎日隅から隅までチェックするような海外インディロック好きのための音楽。キッチュなシンセサウンドやトライバルな躍動感、ゲスト多数の演奏や多彩なヴォーカル勢による賑やかな祝祭的ムード、そしてベッドルームで醸造されたサイケデリアが迷宮のような深い奥行きを構築しています。さらには目映い輝きを見せるポップネスでとっ散らかりそうな音の群れをコーティングし、外界から閉ざされた内的宇宙をダイナミックに膨張させていく。それは Animal Collective を筆頭とする現代アートロックの前衛的インテリジェンスからの影響が濃厚、なおかつ国産シティポップへの憧憬も入り混じり、なんなら音響/アンビエントニューウェーブだって混ぜればいいじゃない、って感じで禁じ手なし。


すでに代表曲と化している感のある清涼シンセポップ 「透明感」 、牧歌的で多幸感に満ち溢れた 「Tropical Splash」 、波の音と同化するサウンドはチルウェーブの影響も感じられる 「The Beach」 、暖かな体温を感じさせるヒップホップ・ポップ 「Merry Christmas Mr. Walken」 等々20曲の大ボリューム。様々なアプローチがありつつ、いずれにも共通するのは人懐っこいメロディと輪郭の滲んだサウンドが醸す微睡み。 Pitchfork 隅から隅まで読んでそう、と言うのは偏見かもしれないけど決して悪い意味ではなくて、自分の好きな音楽から得たインプットを咀嚼して、気の合う仲間と好きなように作り上げた音楽、という感じ。中にはほとんどアニコレまんまじゃないかって曲もありますけども、まあ好きならしょうがないか、っていう。


この俗世とは切り離された音世界に対して、内輪ノリとかスノッブといった印象で終わってしまう人も多くいるかとは思いますが、個人的にはそれよりもひとつの音楽コミューンの気ままな音遊び、それがいつの間にかマス相手にして聴衆を巻き込んでるという感じで、その万華鏡のようなサウンドの群れを抵抗なく楽しめました。多分ポップスとして単純に質が高い曲が多いからかなと。


詳細不明の7人組による初の全国流通フルレンス。


Rating: 8.5/10