ZAZEN BOYS 「すとーりーず」

すとーりーず

すとーりーず


「繰り返される諸行無常、よみがえる性的衝動」 。向井秀徳の歌詞世界をワンセンテンスで表現したこの謳い文句は過去にも何度も使用されており、今回でも冒頭において低く苦く囁かれています。もはやマンネリ芸の領域に達してるかと思っていましたが、それがこれほど頼もしく響いてくるとは思わなかった。


ここには NUMBER GIRLZAZEN BOYS 、 KIMONOS と渡り歩いてきた向井の音楽性の全てが凝縮、収斂された、活動の集大成とも言えるサウンドが展開されています。 「破裂音の朝」 は久々に風通しの良さと滲み出る郷愁がナンバガ時代を想起させるし、変則的な疾走感で身体を揺さぶりながら翻弄する 「サンドペーパーざらざら」 はザゼン初期、冷たくシュールな変態テイストでファンクを独自解釈した 「サイボーグのオバケ」 「ポテトサラダ」 は最近のザゼンニューウェーブの艶やかさと仄暗い切なさを醸し出す 「はあとぶれいく」 はキモノズ、といった具合。ただ各時期ごとの音楽性が博物館みたいに羅列されてるだけかというと全くもってそんなことはなく、引き出しの多さを披露しながらその全てが現在進行形のアップデートを施された形であり、最新型の ZAZEN BOYS であるというトータリティに図太く貫かれています。


変拍子/奇数拍子満載のつんのめるグルーヴを基盤とし、余計な贅肉を削いで鍛え抜かれ、一打一打を確実に重く当ててくる強靭なバンドサウンド。かつて実験的/飛び道具的に使用されてきたシンセ類も、ここではすっかりアンサンブルを構成する重要な一部として機能しており、現在の彼らにとってなくてはならない武器となっています。ポストパンク、ファンク、フュージョンオルタナティブといった要素を取り込みながら、結果として出てきたのは ZAZEN BOYS 以外の何物でもない、強烈なオリジナリティを放つ異形のダンス・ロック。


そして。向井のヴォーカルはあからさまに叫ぶことをやめた代わりに、ちょうどジャケットに使用されている落語家のような、ちょいちょいユーモアを交えたりして軽妙でありつつ、渋味や重みを含んだ独特の語り口、歌い口となり、リリックのひとつひとつが音と同化してヒットしてきます。一番圧巻だったのはラスト 「天狗」 。ダイナミックにうねるサウンドの上で、これもかつて向井が度々用いていたモチーフ 「天狗」 を軸に、妄想と記憶が入り混じる不条理で文学的な世界観がブワッと広がる。少しばかり 「NUM-HEAVYMETALLIC」 の時期を思い出しましたが、この叙景におけるどっしりした表現力は今の彼でなくてはできないはず。


正直に言うと、シンセを大きく導入し出したあたりから向井の作品に少しずつ違和感や食い足りなさを感じていたのですが、その経験がここまで説得力のあるものに昇華されるとは思わなかった。模索の時期を超えて、満を持してといった感じで放たれた代表作、現段階での彼らの最高傑作だと思います。


4年ぶりとなるフルレンス5作目。


Rating: 9.4/10