箱庭の室内楽 「birthday's eve」

birthday's eve

birthday's eve


「箱庭」 で 「室内楽」 。とにかく隅っこでこじんまりやろうという本人達のアティテュードの表れかもしれませんが、そのぶん人目を憚らず、楽しいことやりたいようにやろうという。そんな趣味の延長のような音楽が、実は最も正義的な音楽なのかもしれませんね。


前半と後半でエンジニアや参加メンバーが違うのですが、これ別々の時期に録ったものをコンパイルしたということですかね。まず前半の話。近いイメージとして連想するのは OGRE YOU ASSHOLEsleepy.ab 、あるいはトクマルシューゴ。海外インディロックのエッセンスを独自に解釈し、サイケな意匠も感じられる暖かみのあるサウンドと、牧歌的で馴染みやすいメロディでコーティングしたローファイ・ドリームポップの応酬です。いかにも DIY 宅録といった感じの控えめな音像ではあるんですが、それがむしろ音のファジーな感触を助長し、人知れず湧き立つ泉のようにカラフルな色彩が零れてきます。小気味良いリズムが祝祭の陽気なムードを醸す 「pascal」 、優しさと物悲しさ、一匙の毒が入り混じる 「墓掘り人夫」 など。


それが後半になるともう少しハリのある音で楽曲全体に力強さとスケール感が出てきます。方向性自体は同じく多彩な音色を使ったドリームポップですが、 「rosia」 の歪んだギターサウンドでいきなり驚かされたり、流麗なオーケストレーションとバンドサウンドの対比が豊かなドラマチシズムを生み出す 「EL POTO」 、街中でのフィールドレコーディングを活かした10分超の大曲 「ALL (winter version)」 など、楽曲毎にアイディアを効かせてさらに光と色彩を増した、よりパノラミックなサウンドスケープに浸れます。特に 「ALL」 、ここまでくるともはや室内のせせこましさではない。


インディロック系というと最近の時流に乗っかったと思われるかもしれませんが、ここにあるのはそういった俗世とは切り離された、おとぎ話のようなタイムレスな空間。実験的な試みがそこかしこにありつつも、中心には聴き手を選ばない多面鏡のような不思議な魅力があると思います。


2006年結成の4人組による、約6年ぶりとなるフルレンス2作目。


Rating: 8.3/10