FUJI ROCK FESTIVAL '12 3日目


睡眠時間少なめで逆にハイになってきてる3日目です。


ゴジラ放射能ヒカシュー @ ORANGE COURT
前回のフジロック出演時は見れなかったヒカシューも今回はしっかりチェックです。まずはヒカシューの正規メンバー5人が登場し、新譜から 「筆を振れ、彼方くん」 からスタート。技巧派プログレッシブな演奏とともに何処から声を出してるのか分からない巻上公一の演劇的パフォーマンスが初っ端からキレッキレ。ネジ数十本外れたような荒ぶる奇声だったり、素っ頓狂な裏声だったり、こぶし入った演歌的歌唱だったり。このシュールで奇妙な味は間違いなくヒカシュー以外にはないもの。この時点でも十分強烈なのに、マリアンヌ東雲 (キノコホテル) 、不破大輔渋さ知らズ) 、芳垣安洋ROVO) らが加わった 「ゴジラ放射能ヒカシュー」 としてのプログラムが待っているわけです。


まずはマリアンヌがリードヴォーカルを執った 「ゴジラ対ヘドラ」 のテーマ曲 「かえせ!太陽を」 。曲自体は思い切り昭和歌謡なこの曲はマリアンヌにピッタリ。しかし歌詞は 「水銀コバルトカドミウム〜」 と環境問題をダイレクトに切った鋭い内容。続いては女性ヴォーカルデュオのチャラン・ポ・ランタンを迎えての 「モスラの歌」 。彼女らの民謡的な朗々とした歌声はやはり原曲とマッチ。実に適材適所なゲスト陣。元々ダイナミックだったりキャッチーだった原曲がバンド編成によってよりその味を強くしており、ヒカシューの個性と相まってこれもまた奇妙な味わいと転じていました。そもそもなんでゴジラなのかと言うと 「原子力による大災害」 ということで 3.11 から1年以上たってなお迷走する日本への政治的メッセージとして、なわけです。そこには斜に構えたシュールさばかりではなく、エンターテイナー的な楽しさや新鮮味の裏側にある真摯さ、悲痛さを読み取ることができます。なのでラストは Kraftwerk 「Radio-Activity」 の壮絶カヴァー。現在のヒカシューを色んな面から体現した素晴らしい内容でした。


CHTHONIC @ WHITE STAGE
メンバー自ら 「We are the heaviest band in Fuji Rock!!」 と煽っていたがダテじゃない。今フェス唯一のメタルバンドであります。でも実はこれが2回目の出演だったりするのだね。二胡を使ってオリエンタルな要素を取り入れた剛直メロディック・デスメタル。全員黒づくめのタイトな衣装で登場し、突き刺さるようなヘヴィサウンドでメロイック→ヘドバン→モッシュ→ダイブ!客はちと少なかったけどここぞとばかりに熱いの好きな御仁が集結してて盛り上がってたよ。そしてこの日は心強い助っ人ゲストも!琴奏者の市川慎、日本大好きマーティ、そして…デス声で武蔵。ええー?もうなんかわけわからんけど楽しいから良いか。


井上陽水 @ GREEN STAGE
10年ぶりのフジロック出場となるレジェンド。ふらりと現れてアコギを手に持ち、始まったのはシリアスな焦燥がひり付くような 「東へ西へ」 。陽水の歌声は何処か英語的な響きを含んで聴こえるけど、それでも饒舌な歌詞の一つ一つがしっかりと耳に残る。もう60歳以上になるというのに何とも豊かな声量で、未だ現役感を感じさせるさすがの歌唱でした。 「次は…最新のリズムを使った曲です」 からの 「リバーサイドホテル」 (ええー) 、やはりロック的な焦燥感を感じさせる 「限りない欲望」 など、和製フォーク/ロックとしてすっかり孤高の位置に辿りついた御大の力量を、パワフルだけど硬すぎず飄々とした独自のスタイルで発揮。特に 「最後のニュース」 の壮絶さと清らかさは今回のフェスのハイライトと言えるかもしれません。終盤はもうフェス向け出血大サービスという勢いで代表曲連発でしたね。 「傘がない」 でシメて 「みなさんお幸せに」 と言葉を残して去って行った御大。まるで仙人だな。


ELVIS COSTELLO AND THE IMPOSTERS @ GREEN STAGE
実を言いますと俺コステロって全く聴いたことなかったんです。カタログが多すぎて手を出しづらかったというのもあったし、パンクの人なのかフォークの人なのかニューウェーブの人なのかポップの人なのか、どういう気構えで臨めば良いのか分からなかったというのもあります。後ろの方でちょっと様子を窺うか…と思ってたら SE もなくメンバー一斉にひょいひょいと飛び出し、息もつかせぬ勢いでノリの良いロックンロールジャジャーン!ああ、もう大文字で 「ロック」 の人だったんだ、と。ルーツに根差しつつも現在進行形の若々しい勢いがあり、ソウルフルな歌声や厚みと共に味のあるギターが職人の技を思わせつつ、普遍的な親しみやすさがある。ほとんど MC や曲間もなく、バッと現れてバッと去っていく潔さで持ち時間いっぱいを駆け抜けたのでした。良いオッサンだ。


RADIOHEAD @ GREEN STAGE
一昨年の ATOMS FOR PEACE に続いて、ついに本隊が降臨。個人的にはレディヘを見るのはおよそ8年ぶりか。先日ステージセットの倒壊で死者が出たということで今回どうなるのかとひやひやしましたが、初っ端の発表の時点でフジに対するテンションを大いに盛り上げてくれた大トリの登場です。


そのセット、ステージに仕掛けられたカメラがメンバーをとらえ、バックに設置された12のヴィジョンにマルチアングルで映し出されるというもの。さすが大物だけあってビッグバジェットな演出やな…。んで内容は 「The King of Limbs」 「In Rainbows」 からの選曲がメインで、バンドの現在形を主張するセットリストとなっていました。曲が変わるごとに各メンバーのパートもフレキシブルに切り替わり、細かなビートと温度を感じさせないシンセ類を基調としたエレクトロ・インディロックを連発。複雑なビートでも Thom Yorke はタガが外れたように踊りまくり、テンションの高さをアピールする。やはりこの人常人とはセンスが少しズレた所にあるのか。過去作からの曲も 「Kid A」 や 「Pyramid Song」 のような低熱のトーンの曲が選ばれ、 「There There」 のようなギターの目立つ曲は少々浮いてるように感じました。 「Planet Telex」 も演奏されたけど、もはや別のバンドの曲みたいだったものな。


しかしまた人を選ぶステージだったと思います。最近の楽曲は特に小粒で淡々としたトーンが多いため、ともすれば見どころに欠ける単調なライブになりかねない。そこで過去の楽曲を演奏するとなると、それはそれでガジェット感が強く出てしまう。クールな緊張感やインテリジェンスはもちろん感じられますが、それがライブの魅力として最大限に働いてるかと言うとまた微妙なところ。俺はまだ思い入れがあるので最後まで見れましたが、これ一見さんには結構キツかったんじゃないかな。少々期待値が高すぎたかもしれないな、と後で思いました。


以上で今年のフジロックは終了。ベストアクトは James Blake かな。しかし今回見たものはほとんど良かった気がします。たくさん当たりを引けて満足の心地で帰路についたのでしたとさ。