NO NUKES 2012 初日


今回は初日だけ行ってきました。今年の夏フェス初めです。


何故このフェスに参戦したかというと完全に YMOKraftwerk 目当て。なんか会場がまるでガラガラみたいなネガキャンが一部であったみたいだけどそんなことなかったよ。フェスタイトルにあるように今回は 「脱原発」 という坂本龍一の思想・メッセージが強く表れたイベント。会場内ブースには原発に関する団体の出展がズラリと並んでいたり、演奏前には毎回専門家へのインタビューを流すといった手の入れよう。出演者も当然今回の趣旨に賛同した人ばかりなので、 MC では各々の言葉で脱原発を訴えるなど。それらの演出はもうとにかく 「原発は百害あって一利なし」 ということをオーディエンスに刷り込ませ、啓発させるものでした。


俺自身ももちろん反原発の考えではありますが、この有無を言わさない勢いの原発の叩き方を鵜呑みにするのもちょっと危険なんじゃないかな、と反射的に思ったり。例えば原発は危険だ、放射能は危険だと強く言い過ぎると福島を始めとする地域への偏見・差別に繋がらないのかな、とか。まーそういった疑問が浮かんだのであればそこから自ら勉強すれば良いわけだし、そういう意味でも色々考えさせられるフェスでありました。個人的に今までこういう政治的なイベントってあまり関わらないようにしてた所があるんですけど、さすがにそうも言ってられない状況じゃないかな、って。


以下ライブの感想。


ASIAN KUNG-FU GENERATION
数年前に見た時と印象は変わらず。ライブ定番曲に 「リライト」 や 「ループ&ループ」 といった有名曲も交えたセットリストで、非常に堅実、安定した演奏。自分たちの役割を客観的に十分理解してて、それをきっちりこなすといった感じ。良くも悪くも全く破綻のない、王道バンドらしい演奏でした。個人的にはやっぱりこの一切のブレのなさが逆に物足りなかったりするんだけど、まあオープニングから盛り上がってたし良いんじゃないかな。


SOUL FLOWER UNION
名前は知ってたけどすれ違いだらけで今まで見ることのなかった SFU 。ようやく腰据えて見たわけですがやっぱり格好良かった。様々な地域の土着的なワールドミュージックをチャンポンして、中川敬のコブシの効いた男らしい歌唱でまとめ上げる独自のロック歌謡。 「極東戦線異状なし!?」 「満月の夕」 などメッセージソングだらけで一番 NO NUKES を体現していたバンドでした。と言っても重苦しくはならず、原発廃炉でエエジャナイカの陽気でポジティブなお祭り騒ぎが前進への力強さになる。鉄板のライブバンドっぷりを十分に発揮していました。


元ちとせ
後ろの方でまったりと。正直 「ワダツミの木」 しか知らなかったんですが、思ったよりも力強さがひしひしと感じられる歌声でした。ファンキーな躍動感を緊張漂うムードの中で鳴らすといった意外な一面もあったり、上体を大きく揺らして手を差し伸べながら歌うその様には、ただエキゾチックなだけではない、艶やかさと芯の強さを併せ持った多面的な魅力があったと思います。途中で坂本龍一ピアノ参加。


HIFANA
サウンドチェックの時点で相当な音圧に少し怯む。ターンテーブルサンプラーを駆使した人力ダンスミュージック。ビートマニアのごとくサンプラーを連打して激しい躍動感を生み出しつつ、メンバー2人がターンテーブルサンプラーを交互に入れ代わりながら演奏するなど見せ方も上手い。なのだけど…うむー楽曲がちと大味すぎてあまりのめり込めなかったのと、手作業でビートを鳴らしてるせいか整合性に欠けると言うか、打ってほしいポイントが微妙にズレてると言うか…個人的には生でもない打ち込みでもないという中途半端な印象を受けました。あと初っ端の映像で坂本龍一出演。出ずっぱりか。


YMO小山田圭吾高田漣権藤知彦
昨年のフジロックでは見れなかった YMO 。今回こそはと思いコンディションを十分に整えて (食っちゃ寝して) 万全の体制で臨みました。


熟達のサポートメンバーを従えての特別編成でしたが、アンサンブル自体はそこまでゴチャゴチャと複雑になることなく、むしろスタイリッシュに洗練されたアレンジを施されており、現在形の YMO として新鮮に響きました。各々がクールな表情で淡々と演奏をこなす、しかしその一音一音に含蓄がある感じ。セットリストは YMO の中でも初期の楽曲をメインにしたもの (2日目は中期以降だったようですね) 。細野晴臣の渋いヴォーカルが冴える Kraftwerk 「Radio-Activity」 カヴァーに始まり、 「Firecracker」 「東風」 「中国女」 と往年の名曲満載。さらには 「Cosmic Surfin'」 からの 「Absolute Ego Dance」 !この曲生で聴けたら楽しかろうと思ってたので聴けて良かった。そのいずれもがバンド編成の生演奏によるものですが、ライブならではの熱量というよりはやはりノーブルな品の良さといった落ち着きの方が先に出て、それが洗練という印象に拍車を掛ける。しかしそれでも70〜80年代テクノポップが本来持つB級コミカルな味わいは完全には払拭されておらず、洗練されても何処かしら取っつきやすい敷居の低さがあるという。これが YMO ならではの個性、ということでしょうかね。


坂本龍一は演奏の途中で 「NO NUKES MORE TREES」 と書かれたフラッグを大きく振り上げ、このフェスに込めたメッセージを力強くアピールする一幕も。 YMO の中でもやはり彼が今回の主導権を握り、それ故に力も人一倍入っていたのでしょう。もちろん演奏の最中にはそんな力みや緊張は見せず、落ち着きの中に貫禄と笑顔も見せた堂々のステージングでした。ラストはもちろん、みんな大好き 「Rydeen」 。


KRAFTWERK
YMOクラフトワークが2012年の今になって同じフェスに出演する…というのはおそらく当時をリアルタイムで経験していた人にとっては名状しがたい幸福じゃないでしょうか。もちろん俺は完全なる後追いではありますが、当時のテクノシーンに対する憧憬も何となく持っていたので、これを逃す手はないなと思い。


ステージに現れたのは横一列に並んだ4つのテーブル。おそらくそこに機材が繋がれているのでしょうが客席からはその類が一切見えず、この上なくシンプルなセッティング。そして現れたメンバー4人はウェットスーツのような黒の衣装に身を包み、今まさに音が鳴る…と思ったその瞬間、スーツが光る!テーブルも光る!後ろのスクリーンも光る!


ロボット時代の幕開けです。


Daft Punk を初めて見た時の興奮を俺は思い出しました。音と光と映像のコラボレーション。アイディアひとつでライブはここまでエンターテインメントになるんだって。 YMO と同様にオープニングは 「Radio-Activity」 でしたが、こちらは日本語をスクリーンに映し出し、 「チェルノブイリハリスバーグセラフィールド・フクシマ」 「放射能・いますぐ・やめろ」 と、実にストレートなメッセージを投げかける。その後は 「The Robots」 「Trans-Europe Express」 「Computer World」 といった往年の名作からバランス良くセレクト。


こちらも70年代テクノポップのコミカルな味はあるものの、リメイクの手法を執った YMO に対し、クラフトワークは徹底的なブラッシュアップか。生音を排除した純然たるテクノサウンドで、レトロでシュールなテイストを残しつつ、シャープに研ぎ澄まされた音の一つ一つが的確に身体を打つ、その快楽性はストイックながらも十分に有効。そして映像では成長する経済、開発、数字やデータが支配する世界、それらに対する辛辣なメッセージを無言のうちに投げかけているような、彼ら独自の無機質な世界観をスクエアなグルーヴと共にインパクト強く表現していました。大御所が今でも先鋭的なセンスを持ってこういったライブを演れるというのは本当に凄いことだなーと。文句無し、今回のベストアクトでした。



そんな感じで、色々な考えをぼんやり頭に浮かべたまま、満足の面持ちで帰路についたのでした。もし今後も継続するのであれば、メッセージだけじゃなくメンツ的にも他のフェスともっと差異をつけた方が良いと思う。2日目は結構がっくりきたからね…。