cellzcellar 「circus from a bygone era」

CIRCUS FROM A BYGONE ERA

CIRCUS FROM A BYGONE ERA


夢見がちなのをもう一枚。


文字通りサーカス風のイントロを抜けて、視界がパッと開けるように切り込んでくる轟音ギターと、ドリーミーな聖性を湛えたエレクトロニクスが交錯する 「Laika」。ジャケットのイメージから例えば The Album Leaf のようなキラキラふわふわしたアンビエントサウンドを予想していたのですが、そういった側面がありつつも美しいだけでは済まされない、歪んだダークネスをそこはかとなく孕んでいるのが絶妙に効いています。不規則に歪めて散りばめられたエディットノイズは world’s end girlfriend を連想させるし、ギターの引き締まったヘヴィネスはかつて Raredrug 名義で冷徹なメタル/ハードコアサウンドを演っていた経験があるからこそ成せる業なのかなと。そんな美醜の醜にあたる要素が全体の幻想的なムードに柔軟に馴染んでいるのだから唸らされる。


そして多彩なゲストヴォーカル陣は曲毎に違った彩りを添え、ひとつの風景をそれぞれ違った目から見ているような、多角的な奥行きを作品全体に与えています。不穏な妖しさが靡く 「The strange sun」 、荒涼とした大地に光が降り注ぐような 「Pendulum」 、凄絶とも言えるドラマチックなカタルシスに満ちた 「Sketch」 「Further」 など、エレクトロニカ/ヘヴィロック/ポストロックが自然に融和した音世界。そこで繰り広げられるサーカスは、ひどく壮大でエモーショナルなのに、一夜の夢のように儚い。時にはアナログ的なローファイも味方につけた音質、テクスチャーの細やかさや巧みな長尺構成も含め、こういう言い方が適切かどうかはわかりませんが、ポストロックの見本のような内容だなと思いました。


しかしまー、前回の Anrietta といい、自分の世界を持ってるアーティストが多すぎて、一体この世にはいくつのパラレルワールドがあるのかしらね。見たことのない小宇宙はもしかしたら隣人の部屋に潜んでるかもしれない、なんて考えたら楽しみが多すぎてきっと持て余すような暇なんてないですね。


神奈川在住、 Mitsugu Suzuki によるソロユニットのデビュー作。


Rating: 8.3/10