清竜人 「MUSIC」

MUSIC(初回限定盤)(DVD付)

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うん!キモい!


俺が彼の作品を聴くのは 「WORLD」 以来なんですが、俺含めそういう人で今作を聴いたら誰しもが噴飯すると思います。アコースティックあるいはオーソドックスなバンド編成で素直な感情を歌い上げるというスタイルは遥か彼方に消失。アニメ声優やヲタカルチャー文脈の方々をアレンジャーに迎えた楽曲群は、激しく跋扈する Kawaii ヴォイスの合いの手、一切の隙間を許さじとばかりに音数が詰め込まれるキッチュなエレクトロトラック、さらにはラジオドラマ風寸劇も目一杯盛り込んだ超飛び道具な内容。こんなもん 「打ち込みに興味があったから」 とか 「自分以外の声を多く入れたかったから」 なんていうエクスキューズでは全く納得できない、彼の中にあるカルマの扉が開いてしまったとしか思えない仕上がりになっています。


この手の音楽に免疫のない人は、過去の楽曲が好きだった人でもオープナー 「CAN YOU SPEAK JAPANESE?」 の時点で思い切り篩にかけられるでしょう。中身があるようなないようなゆるーいコント、目まぐるしく小ネタの詰め込まれた情報量過多に飲まれて目一杯の脱力と戦慄を余儀なくされる。でもメロディや歌は意外に彼らしい繊細でエモーショナルな感覚が残っていて、このミスマッチな感覚も楽曲の毒っぽさを色濃くしてるような気がします。 「自分に気付いてほしい」 「自分の好きなように愛したい」 など、しょーもないようでいて実は普遍的なテーマがサービス精神特盛のコミカルタッチで描かれてるという。しかも歌詞の中で愛したり愛されたりするのは全部清竜人本人。曲中で何回も自分の名前連呼させるんだから全く致死的にナルシストだ。


この作風といい自意識過剰さといい、ダメな人は数分でストップボタンを押すはず。しかし俺は首根っこを掴まれるような勢いでガッと引き込まれました。 Kawaii 声に対する背中のむず痒さは多少あるのですが、それ以上に 「今これを作らなければならない」 という中身のノリに反したテーマへの妥協ない真摯さ、または 「どういう風に捉えられても良い」 というメタモルフォーゼに対する覚悟の強さのようなものもひしひしと感じられます。というかこういうのってヲタ文脈に関係なさそうだった人がやるほど破壊力ありますよね。楽曲的には MOSAIC.WAV が手掛けた 「Fall♡In♡Loveに恋してるっ♪」 が一番パンチ効いてますが、さらに音的にごちゃごちゃになった 「インモラリスト」 セルフカヴァー、大阪底辺あるあるソング 「おどれどつきまわしたろか」 や今作中唯一の良心 「雨」 など、聴き応えあるナンバーばかりが並ぶ前半の濃厚さは特に秀逸。


例えば声優シンガーが普遍的なポップスを志向する、または出自も路線もガチの電波ソングで貫き通すという人はよくありますが、普通のシンガーが突如目覚めたように電波を受信してしまうというケースって俺は初めて見たんですが他にいたら教えてほしい。どう足掻いてもサブカルチャー/カウンターカルチャーであり、イベントで何万という人数を動かせるとしても相変わらず日陰の場所にあるはずのヲタ文化が、ついにメインストリームを侵食し始める、その足掛かりとなるのでしょうか。それだけこの手の歌が市民権を得てきたということでしょうか。


そうか、日本ってまだまだ狂えるんだね…。


1年1ヶ月ぶりとなる4作目。


Rating: 8.7/10