A Whisper in the Noise 「To Forget」

To Forget

To Forget


それは悲劇的な、あまりにも悲劇的な。


彼らは以前よりこの世ならざる世界を表現する叙景的なバンドでしたが、今回表現されているのは本当に全てが塵に還ってしまい、地平線だけがただ残酷に広がる荒廃した世界のよう。作品を重ねるごとにシアトリカルな装飾が落とされていき、今作ではもはやほとんどの音がアブストラクトな残響音と化して、ポストロックあるいはスロウコア/サッドコアに接近した深い陰影の刻み込まれた作品になっています。これ聴いた後に過去作聴き返すとまだ音が張っててある意味元気あるなあと錯覚するくらい、まるっきり生気がない。


非常にシンプルに絞り込まれた音数でありながら、それぞれの音が音響処理を施されて風のように広がり、空間を覆って緩やかに流れ、ひとつの音世界を構築するといった具合に、最小限の意味のある音だけが最大限にフィーチャーされているという作り。またメロディも至極シンプルでありながらひとつのフレーズに対して緻密なハーモニーを重ね、濃縮還元されたメロウな寂寥がただ穏やかに響いてきます。そのミニマルな構成によって風通しは切なくなるくらいに良くなり、虚無感はブラックホールのように大きな口をぽっかり開けて静かに待っています。


「A Sea Estranged Us」 「Your Hand」 などは Sigur Ros にも比肩しうる聖性を厳かに放っているし、渋味と甘味のバランス感覚が絶妙な 「All My」 「Sad, Sad Song」 はすぐさま Low を想起させる。また 「Every Blade Of Grass」 では何処となくブルージーな憂いを醸し出したりと、おそらくフォーク/カントリーを起点としている彼ら独自の色褪せた色が映し出されています。そんな感じでここには悲しくなれるための音楽要素の様々が凝縮されており、ドリップされた雫となってある種芳醇な香りを醸し出しているのです。


そして最後の 「Of This Sorrow」 。12分ある大曲ですが、後半部分では本当に全てが無に帰してしまいました。聴き通すのにひどく忍耐を要しますが、もしかしたらこの作品の中で最もイマジナティブなパートかもしれません。彼らが表現したかったのはこの 「音」 の向こう側にある世界なのかも、と思ってしまうくらいに。


ミネソタ出身、 West Thordson を中心とするバンドの、4年ぶり4作目。


Rating: 8.3/10