赤い公園 「透明なのか黒なのか」

透明なのか黒なのか

透明なのか黒なのか


今週の先物買い。


昨年彼女たちのライブを見る機会があったのですが、今作はその時に感じた楽曲のムード、演奏から発せられる気のようなものを上手くパッケージしていると思います。真っ白い衣装に身を包んだ若い女性メンバーが4人。その幻想的なイメージとは対照的な、業にも似た感情の荒波。最初にインパクトを感じたのはヴォーカルでした。子守唄のような優しさから取り乱して声を荒げてくる、という極端な振れ幅は分かりやすく Cocco の系譜ですが、切迫した緊張感、焼け付くようなリアリティが感じられるのは若さに起因する面もあると思います。バックの演奏もそれに伴ってラウドから静謐をダイナミックに行き来するのですが、様々なエフェクトを駆使するなど意外に技巧派 (特にギター) であったのがまた印象的でした。そして今作では録音/ミックスにおいてのギミックも多数散りばめ、砂嵐ノイズや昭和 GS 歌謡もどきのインタールードも挟むなど、よくある激情ポップロックでは終わらない試みに多数チャレンジしています。


ただそういったギミックに対しては良くも悪くもガジェット感が強いというか、変にこねくり回し過ぎじゃないかなという思いがあり。初の本格的なレコーディングで何でも試せる環境になったからか、本当に色々なことを試しているのだけど、打率は半々といったところ。先が見えない、何が飛び出るか分からないというスリリングな魅力を打ち出すというよりも、奇を衒った結果小難しさだけが残り、あまり有効には作用していないように思います。ユーモラスな仕掛けがメロディ/歌詞世界の表現するダークネスへ入り込むのを邪魔してるような気がして。


しかしながら、大幹となる楽曲自体は良く出来ているのですよ。ちょうど歌詞にも出てくるかごめかごめの薄ら寒さがブーストされた 「塊」 、冷たい水のようにメロディがさらりと身体を伝って流れていく 「透明」 「潤いの人」 、負の感情のスパイラルへと吸い込まれるような 「副流煙」 、キーボードの音色と心地良い疾走感で少しばかりオープンな風通しの良さを感じさせる 「世紀末」 の全5曲 (に見せかけた全9曲) 。情念が湧き上がる部分ではやはり Cocco 的なのだけど、清涼感のあるメロディが醸すミステリアスで透明な空気感、それが個人的には教授プロデュース時の中谷美紀を想起させたりもして、ある種甘酸っぱくも奥ゆかしい感じに少々身悶えるなど。


アルバムタイトルは素敵だと思います。自分が抱え込み、ここで詩/歌として発散させているものは疑念や不安といった負の感情なのか (黒) 、果てしなく人間らしいイノセンス (透明) なのか。透明はふとした拍子で汚れてしまうし、黒は何にも染まらない。危うい均衡を保った表裏一体の衝動は、2012年の今でもリアリティを持って響くはず。


2010年結成の4人組によるメジャーデビュー作品。


Rating: 6.6/10