Goldfrapp 「The Singles」

The Singles

The Singles


こうして軌跡の概観を見てみると、彼女らもたいがい音楽性を千切っては投げ、千切っては投げしてるよなーって思う。 「やってみた」 好きと言うか。


トリップホップゼロ年代なりに再構築、ブラッシュアップし幻想的なダークネスを展開したデビュー作 「Felt Mountain」 、それがまるで無かったことにされたかのようにエッジィなエレクトロ・ダンスポップに変貌した 「Black Cherry」 「Supernature」 、それらがまた跡形もなく消し飛んで木洩れ日の暖かさに満ちたフォークトロニカとなった 「Seventh Tree」 、そして現時点の最新作 「Head First」 では80年代シンセポップのレトロフューチャーな風味も加えたダンス路線に回帰。こんな経歴を辿ってきたアーティストもそうそういないでしょう。自分たちにとっての旬な音を体現するという意味では活発なクリエイティヴィティを持った現在進行形のユニットとも言える、か。


こんな感じで方向性が多方面に振れながらも迷走してる感を見せないのは、 Alison Goldfrapp によるウィスパー寄りのヴォーカルによるところが大きいと思います。アゲアゲのダンスポップとなると女性ヴォーカルは所謂ディーヴァ的にドスが効いてたり、無闇にゴージャスなセクシュアリティを全方位に放出していたりするものですが、彼女の歌は純度の高い透明感があり、靡くヴェルヴェットのような艶やかさがあり、落ち着きと品がある。その透明ゆえに様々な色に染まりやすい歌声は、 1st 期ではアザーサイドへの導人としてディープな気を吐き、 2nd 、 3rd でコケティッシュな甘い吐息へと変わり、 4th では子守唄のように優しく暖かな包容力を感じさせる、といった感じで様々な音楽性に対応し、それぞれにおいて違った表情を見せてくれる。まるで虹のようにグラデーションの移り変わりを遂げる色彩。


その歌声に合わせてか、エレクトロ路線の曲でも低音バキバキのアタック感とはいかず、良くも悪くもサラッとした軽さがあって聴きやすく洗練されているのですね。それゆえ全世界を相手に気を発するようなリアリティあるパワフルさではなく、境界に薄幕を張った隔世の感がある気がします。世界を目指すのではなく、世界を創る。色彩豊かなインナーワールドを大きく膨張させて、聴き手を巻き込んでいく感覚というか。ちと抽象的すぎますかね。


何はともあれ、彼女達の作るポップスには余所にはない気品があり、それが全編に通底していてどの路線でも違和感なく楽しめるということです。個人的には最初に触れた 「Seventh Tree」 の頃の楽曲に最も愛着があり、それは今でも変わらないのですが。つーか Alison 、今年でもう46歳なのか…。


ロンドン出身の男女デュオによる、初の編集盤。


Rating: 7.5/10