いちろう 「Fly Electric」

Fly Electric

Fly Electric


俺の知る一郎の中で最も変な一郎がこちらになります。


「2007年の年末、突如 PC での音楽制作に目覚める」 て。何が彼にそんな天啓をもたらしたのかは分かりませんが、ここにドラマーとしての彼の姿はなく、次元の狭間から聴き手をせせら笑うような奇怪な表情を浮かべるエレクトロ精神刑が繰り広げられています。


表題曲 「Fly Electric」 。40分近くに及ぶ超大作ですが、神経質なパルスと虫が先に反応しそうな波長域の環境音のみが、40分に渡ってただ静かに鳴っているだけという拷問のような曲。まさかこれで最後までやりきるつもりじゃあるまいな…まさかな…まさか…やりきった!バカだ!他は Autechre や昨年の砂原良徳 「liminal」 にも通じる深遠でディストピアックな IDM 「io3」 、いたずらに不安を煽るラップ音の交錯が Nurse with Wound 的な悪意を感じさせる 「sah」 、霞んではっきりとは見えないけど確かに光の美しさが覗いた 「kite」 、以上4曲。


先述の Autechre であったり、こういった前衛的なテクノサウンドを発表していたアーティストは過去にも数多くいるし、それら先人の差異は正直なところ希薄。また環境音楽として聴くには激しく質量が重く主張が強い、しかしながら曲の構築が無軌道すぎて冗長な印象の方が強く、敷居の高さばかりが目立ってしまって音自体にのめり込めない、というのが素朴な感想。 掴みどころがないばかりか、聴き手のイマジネーションが介入することをすっかり拒んでさえいるような気がします。身体に刺さるリズムの強度でもなく、蛙を睨む蛇のような緊張感でもなく、音の向こう側に映る情景も真っ暗。では聴き終えた後に何が残るか?


何もない。空洞です。


ex. ゆらゆら帝国のドラマーによる初のソロ作品。


Rating: 4.2/10