GOTH-TRAD 「NEW EPOCH」

ニュー・エポック

ニュー・エポック


GOTH-TRADダブステップを自称することへの違和感について。


だって GOTH-TRADダブステップなる呼称が生まれるずっと前から、ジャンルの枠に縛られることなく独創的な姿勢でダブの可能性を模索し続けていたのに。ダブステップ自体は好きで聴く方ではありますが、別に彼がわざわざそれを名乗る必要性ってあまりないんじゃないかというか、ここにきて彼がトレンドの波に乗っかってひとつの枠の中に収まろうとしてしまうのは凄く勿体ない気がするというか、とにかくこう、もにょもにょする。


タグの煽り文句を読んでそんな感情を聴く前には抱いていたのですが、実際に蓋を開けてみればまーなんと格好良いこと。


確かにリズムパターンであったり上モノの音色、ミックスの質感であったりといった楽曲の組み立て方は所謂ダブステップを下敷きにしたものです。輪郭を滲ませたまま極端にブーストされ、鼓膜にダイレクトな刺激を与えるベースライン。適度な隙間で風通しの良さを保ちながら流れるグルーヴィなスピード感。しかしながら彼が作る音楽はダブステップのフィルターを通しても異形の個性が業のように纏わりついています。時にはノイズ/インダストリアルの領域まで突っ込むサウンドの攻撃性、トリップホップにも似た強迫観念的な緊張感とダークネス、そういったアヴァンギャルドな劇薬の刺激が常に前提として在り、ダンサブルではあっても享楽的にはまるで成り得ない。


様々なテクスチャーがダブ特有の歪な音響性で重ねられ、酩酊と覚醒の狭間をゆらりゆらりと浮遊するような全11トラック。ひとつの楽曲の中に数曲分のアイディアが詰め込まれていたりもしますが、それらは雑多であったり情報量過多なものではなく、グラデーションのように変化するループフレーズの切り替えの妙技によって、先の読めないスリリングな魅力として聴き手を強く惹きつける。 「Departure」 「Anti Grid」 などではその手腕を最も強く実感できると思います。他でも 「Walking Together」 「Seeker」 で見せるそこはかとなくメロウな寂寥にはハッとさせられるし、対照的にほとんどデジタルハードコアと言って良い 「Air Breaker」 で仕掛けてくる無機質なアグレッション、レゲエヴォーカル客演によってキナ臭さが頂点に達する 「Babylon Fall」 なんかも最高にクール。


緻密かつ大胆なサウンド構築は、アブストラクトなノイズの狂気を撒き散らしていた頃とは別の形で、辛辣とも言えるほどの冷徹さをもって彼の持つ内的世界を表現しています。何かの鋳型に流し込まれても彼の血はなお濃く息衝いており、決して絶えることはないということを証明した傑作です。


日本のテクノ・プロデューサーによる、6年2ヶ月ぶりのソロ4作目。


Rating: 8.6/10