東京酒吐座 「crystallize」

crystallize

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ディレイとリバーブとファズとトレモロフェイザーと…あと何が要る?


再生した瞬間から轟々と渦を巻くギターノイズてんこ盛り。 「酒吐座」 で 「shoegazer」 というのは洒落が効いてると思いますが、一度そう名乗ってしまったからにはその呪縛からおいそれとは逃れられない。空間に隙間があればそれは音で塗り潰さなければならないし、フレーズの輪郭が浮かび上がればそれはフィードバックノイズで滲ませなければならない。当然可愛い女性メンバーも必須ファクターです。楽曲の構成からサウンドメイキングの細部に至るまで、偏執的なまでにシューゲイザーマナーに則ったバンドマンの本気の遊び。ぶっち氏のドラムってタイトでストロングな印象があるのであんまシューゲ向きでないんでは?とか思ったけど、ぶっち氏だけでなく他のメンバーもコンセプトのためなら個性だってかなぐり捨てるし、そのぶん狙いに関しては徹底的にやるって感じでなんだか捻じれた気合いがあります。


My Bloody Valentine が作り上げたノイズ曼荼羅の孤立した幻想性、というのも要素としてもちろんありますが、 Ride の内なるもどかしさを破裂させるような荒々しさや Slowdive の聖性に満ちた浮遊感、もっと重症の方なら細かい所で元ネタを拾い上げられるかもしれません。個人的には 「Bright」 や、 「Silent Lies」 「Back to My Place」 といったスロウで美しい楽曲にただ陶然とするばかり。木洩れ日のように慈悲深い歌声と、凡てを浄化せんとする業火のごときウォール・オブ・サウンド


ただ10年くらい前に NARASAKICoaltar of the Deepers) が Astrobrite と組んでマイブラエミュレーターと化したアルバム作ってて、それ聴いた時と同じ感覚を今回も覚えました。つまりジャンル音楽 (ここではシューゲイザー) としてまるっきり隙が無さ過ぎて、ここから前にも後ろにも発展しようのない、一発芸でしかないと言いますか。例えば最近の若手シューゲリストとして The Pains of Being Pure at Heart や Ringo Deathstarr などがありますが、彼らなどはまだ新人らしく音楽的/技術的に未完成、未成熟な感があり、むしろそれが伸びしろという期待に転じ、元の楽曲の思春期にも似た甘酸っぱい高揚感を助長させていると思うのです。 「今の時代に敢えてやる」 とかいうメタではなく、あくまでも 「好きだからやる」 というベタの姿勢であり、それ故の真っ直ぐ前を向いた瑞々しさと、それがいつまで続くか分からない儚さ、危うさが均衡する繊細な感覚がある。シューゲを演ることによって一番刺さるのってその繊細さ、青臭さだと思うのですね。熟達した手練れが虚構の青春を模造しても、模造品として綺麗だとは思うけども。


エフェクターは揃った。あとは若い血が必要。


ササブチヒロシ (ex-Plastic Tree) を中心として結成された5人組の初リリース作品。


Rating: 6.6/10