猫騙 「知恵の輪と殺意」

知恵の輪と殺意

知恵の輪と殺意


おそらく Gilles de Rais 以来のセンスと思われるアルバムタイトルだけで腹一杯になれる。


エスニカル・ファンクロック」 を標榜してるとのことですが、ファンクと言うよりもっと土着的で野蛮な躍動感が骨格としてあり、肉食獣が牙を剥くような獰猛さ、キナ臭いガラの悪さがスリリングな魅力として濃厚な匂いをムンムンと発しています。 US オルタナティブのカラッとした刺々しさから、大陸的なスケール感を見せるサイケデリアまで。その中に力強いメロディを朗々と響かせ、独自のカラーを塗りたくり、総じて現れるのは王道らしい堂々とした風格すら感じさせるロックサウンドです。


初っ端から重戦車のような図太いグルーヴを鳴らす 「Devils Hooligan」 、軽快に言葉を吐き捨てながらドライブする表題曲 「知恵の輪と殺意」 、密度濃い熱気のようなサウンドに飲み込まれる 「Long and winding road」 、サイバーな打ち込み音を噛ませた異色曲 「I don't care」 など12曲。どっしりした安定感を見せるバンドサウンドもさることながら、中心人物である上杉昇の野太い濁声が奇妙なセクシーさを孕んでおり、バンドのアイコン、楽曲の中心として常にギラギラした魅力を放っています。冷静に考えればオーソドックスな音楽性なんだけど、彼の個性をもってエスニックというバンドカラーで括ってしまうと、強烈なアイデンティティとして思わず納得してしまう不思議。


何て言うか、例えばかつての Sads だったり ZIGZO だったりの、グラマラスでワイルドなカリスマ性を持った、それでいて昔ながらの歌謡曲が遺伝子レベルで刷り込まれてる、所謂ロックスターによる (それはつまり非ロキノン的な) ロックンロール。今ではほとんど稀少種となってしまったかもしれませんが、彼らにはそういった良い意味でのロックスター然とした頼もしさにも似たオーラが宿っているように思います。やさぐれた勢いの中にも哀愁や渋味を内包した男臭いロック。それはきっと俺たち私たちの誰しもが好きな/好きだったもの。


2006年結成の5人組による初のフルレンス。


Rating: 7.7/10