ヒカシュー 「うらごえ」

うらごえ

うらごえ


裏声と言って良いのかコレ。


一応80年代スキーを自認してはおるのですが、まだまだ不勉強なものでヒカシューは今のところ 「夏」 しか聴けておりません。そしてその状態で今作を聴くとかなり面喰らいます。ジャムセッション風の躍動感ある楽曲から、互いの出方を窺うように音がひっそり蠢くエクスペリメンタルな楽曲など、チープでB級なテクノポップ/ニューウェーブの面影はほとんどなく、ジャズ/プログレ/フュージョンの影響が色濃い技巧派アンサンブルと化しています。しかしながらそもそも 「ニューウェーブ」 というものがバンド形態でありながら既存のロックの文法に囚われず、新しい表現を目指すという精神/姿勢を指すものであるなら、形は違えどやはり彼らはニューウェーブであると言わざるを得ません。ひどくシュールで不可解な独自の世界を描く、畸形としか言いようのない音。


そしてプログレ志向でありつつも彼らが他のバンドと一線を画す畸形なのは、やはりヴォーカル巻上公一の存在感が圧倒的だからでしょうね。昭和歌謡のスターのような苦み走った渋い歌唱を聴かせるかと思えば、コバイア語を駆使した攻撃的な音の響きを Mike Patton 以上の何処から発してるか分からないような奇声で捲くし立てる。ほとんどパフォーマーとして意味と無意味の境界をダイナミックに行き来し、現状の大いなる不安/葛藤/疑念を発散してるようでいながら、その表現の強度にこちらが耐え切れずついつい笑いが起こってしまう。度を超えた感情表現というのは脳内で処理しきれなくてだいたい笑いとか呆然といった反応に変わるので、そういう反応になってしまう彼らはやはり時代の数歩先を行ってる、もしくは時代と切り離されたモノリスのような存在感を保ち続けてるのですね。


さすがに何十年もやってるとテクニックは嫌でもついてしまうものかもしれませんが、その変化に対して彼らは無理に抗うことなく、当然の進化として表面に出しているのは精神的に強靭ですよね。実験精神が 「やってみた」 程度の付け焼き刃でなく、熟達のテクによって深みを増したものになってる。敷居はなかなか高いかと思いますが高次の知覚も扉を開きそうです。


1978年結成の5人組による、2年4ヶ月ぶり15作目。


Rating: 7.4/10